「今年の新語2019」の選評

5. まだある攻撃的な行為のことば

6位 電凸

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

でん とつ[電:凸](名・自他サ)〔←電話で突撃(トツゲキ)〕団体などに電話して、暴力的に非難したり問いつめたり(した結果をネット上に公開)する迷惑行為(メイワクコウイ)。〔二十一世紀になって広まった ことば〕

6位の「電凸」は、メディアや団体などへの「電話突撃」のこと。「凸」は「突」の当て字です。2004年に生まれたとされ、ネット掲示板などで長らく隠語として使われてきました。攻撃する側の暗い自己満足が感じられることばでもあり、一般人は使う機会がありませんでした。  

ところが、「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」に賛否が寄せられ、批判派の一部が大規模な「電凸」を行ったことがニュースとなって、このことばは広く知られるようになりました。

「電凸」は、隠語の段階では、攻撃する側の行動をかっこよく正当化することばで、国語辞典には載せにくい感じがありました。辞書には中立性が大切だからです。ところが、「電凸」が迷惑行為として報道され、立場を問わず誰もが使うようになると、辞書にあってもおかしくなくなりました。もっとも、ずっと以前から使っている人も多いという点も勘案して、6位とします。 

7位 カスハラ

『大辞林』編集部

カス ハラ 0〔カスタマー-ハラスメントの略〕客が接客担当者などに対し、悪質で理不尽な要求や過度のクレームなどで、長時間の苦情の言い立て、暴言や脅迫、謝罪の強要、暴力行為などの迷惑行為を行うこと。

7位の「カスハラ」は、2018年末に厚生労働省の審議会で「いわゆるカスタマーハラスメント」について議論されたことが報じられたりしたことから、一般に知られるようになりました。これもまた攻撃的な行為に関することばです。顧客による著しい迷惑行為のことで、従来は「悪質クレーム」などと言っていました。  

1980年代末、性的な嫌がらせが「セクシャルハラスメント」(セクハラ)と名付けられることで、迷惑行為であることが明確になりました。以来、「アカデミックハラスメント」(アカハラ)、「パワーハラスメント」(パワハラ)、「モラルハラスメント」(モラハラ)などのことばが生まれ、迷惑行為が可視化されるようになりました。  

顧客は従来「神様」とも言われ、絶対的であるかのように思われていました。しかし、悪質クレームや強要などの行為は、労働者に苦痛を与え、場合によっては犯罪にもなります。「カスハラ」はそのことを知らしめる効果があります。ことばの構成としては、従来の「〇〇ハラ」と異なるところがないので、7位とします。  

8位 垂直避難

『大辞林』編集部

すいちょく ひなん 5【垂直避難】災害時に垂直方向に移動する避難方法。洪水や津波の際に自宅や近隣の建物内で上階に移動することや、地震や火災の際にビルの高層階から地上に移動することなど。離れた場所にある避難所への移動が困難な場合に、安全の確保のために行う。〔離れた場所に移動する「水平避難」に対していう〕

前回(2018年)の「今年の新語」には「スーパー台風」が入りましたが、2019年も猛烈な台風が日本に襲来しました。9月、台風15号が千葉県を中心に被害を与え、その復旧もままならないうち、10月に台風19号が東日本に記録的な甚大な被害をもたらしました。河川は各所で越水や堤防の決壊によって氾濫し、洪水となって、多数の家屋が浸水しました。  

被害のニュースの中で「垂直避難」ということばが繰り返し聞かれました。洪水のために避難場所に行くこと(水平避難)が難しい場合、やむを得ず屋内の高い階や、高い建物に避難することを指します。  災害の際、とっさに適切な避難をするためには、今後、「水平避難」「垂直避難」という考え方を頭に置いておく必要があるでしょう。とはいえ、そうした避難が必要になる状況が来ないことを祈って、8位とします。

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