「今年の新語2019」の選評

3. 軽蔑の感じが薄れた「にわか」

2位 にわか

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

にわか×俄か]ニハカ[一](形動ダ)急に そう〈なる/する〉ようす。〔少し かたい言い方〕「━に空が くもってきた・━な空腹・━雨・━雪・━づくり・━じたて」[二](造語)〔にわか―〕その時だけの。かりそめの。「━勉強・━サッカーファン」 [三](名)その時だけ関心を持つ人。関心を持って間もない人。にわかファン。「━が急に増えた」〔二十一世紀になって、特に二〇一〇年代に広まった用法〕

大賞の「—ペイ」が百科語寄りだったのに対し、2位の「にわか」は、今回の上位10語の中では最も一般語らしいことばです。もともと、「にわかに雨が降ってきた」のような副詞用法や、「にわか勉強」のような造語成分の用法がありましたが、最近は「にわか」だけで「にわかファン」の意味を表すようになりました。 「にわかファン」ということば自体は以前からありました。「にわか成金」「にわか武士」などと同じ用法で、「その時だけのファン」ということです。それが、21世紀になった頃から、「にわか」だけで「にわかファン」「趣味などを始めて間もない人」の意味を表し、特にけなして使う用法が広まりました。ネット掲示板では、「これだからにわかは困る」のように、古参が初心者をばかにする例が多く目につきました。遅くとも2003年にはこの用法があったことが、実例から確認できます。  

この新しい「にわか」の用法が、特にいつ頃広まったかということは、ネットの百科事典に掲載された時期から推測することができます。たとえば、「ニコニコ大百科」では、2009年5月に「にわか」の記事が初めて書かれました。「ピクシブ百科事典」では、2015年3月から10月の間に項目が追加されています。さらに、「ウィキペディア」では「俄(にわか)」の項目に、2019年6月13日に〈にわかファンについては「ミーハー」をご覧ください〉という記述が追加されています。  

これらの記述から、ネット百科事典の書き手が「にわか」の新用法に注目したのは、ほぼ2010年代であると見ていいでしょう。  

もとは蔑称だった「にわか」ですが、2019年には、軽蔑とは関係ない使い方が多く観察されました。9月から11月までラグビーワールドカップ日本大会が開かれ、にわかラグビーファンが急増しました。当人たちは「にわかでごめんなさい」と謙遜していました。一方、昔からのファンは〈どんどんどんどん、にわかが増えて、そこから本当のファンになってもらえればいいかなあって思います〉(NHK「ニュース7」10月6日)のように、初心者を歓迎する文脈で「にわか」を使う人もいました。

人をさげすむことばが、やがて普通のことばになり、褒めことばにすらなる。そんな例は時々あります。「オタク」はその典型例です。美術の「印象派」も元は蔑称でした。「にわか」の人々も、そのうち、スポーツや芸能を裾野で支える大事な存在と見られるようになるかもしれません。

どんな「古参」も「ガチ勢」も、最初は「にわか」です。誰にとっても関わりが深いことばであり、ランキングでは上位に位置づけるのが適当です。ただし、世の中の変化を色濃く反映した「—ペイ」には一歩譲るところがあると考えて、2位に置くことにしました。

あわせて読みたい