「今年の新語2019」の選評

4. 愉快なことばではないけれど

今回の上位10語には、攻撃的な行為や、社会の負の側面に関することばが入っています。3位の「あおり運転」、4位の「反社」、6位の「電凸」、そして7位の「カスハラ」です。「なぜこんなことばが多いのだろう。誰もが鬱屈した不満や怒りを抱える、負の感情が蔓延する時代なのか」と、選考委員会でも話題になりました。決して愉快なことばではありませんが、今後も使われ続けると予想され、避けて通ることはできません。

3位 あおり運転

『新明解国語辞典』編集部

あおり うんてん 4 アフリ
【〈煽り運転】道路を走行する自動車や自動二輪車などに対し、後方から高速で迫って異常接近したり 前方に急に割り込んだり、また、パッシングするなどして、相手を威嚇し恐怖を与えて、重大な事故を引き起こしかねない悪質・危険な行為のこと。

「あおり運転」は、2019年8月にニュースやワイドショーで盛んに取り上げられました。常磐自動車道で、他人の車をあおって停止させ、暴力を振るった男が逮捕されました。その後も同様の事件が報道されました。

重大なあおり運転の事件は2017年から連続し、このことばがメディアに出てくる頻度が急増していました。2019年に至って、悪質な実態がいっそうクローズアップされた形です。

『大辞林』は早く2006年の第3版で「あおり運転」を収録していますが、単に複合語としてのシンプルな書き方で、悪質性についての言及はありませんでした。『三省堂国語辞典』『三省堂現代新国語辞典』は、最新版で「あおる」の新用法を加えたに止まります。ところが、「あおり運転」は今や社会問題化し、今回の投稿数でも4位(58通)になりました。今後の辞書作りでは考慮する必要があると考え、ランキングの3位に選びました。

4位 反社

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

はん しゃ[反社(名)①〔←反社会的勢力〕暴力団など、暴力や詐欺(サギ)といった方法で利益を得ようとする勢力。②←反社会。「━(的)勢力」二〇一〇年代に広まった ことば。

「反社」も、2019年7月、これまた盛んに報道されました。芸能人が事務所を通さずに営業をする「闇営業」で、反社会的勢力の会合に参加していたというのです。「反社会的勢力」の略語の「反社」は、このニュースで耳にする機会が急に増えました。11月には、首相主催の「桜を見る会」に「反社」が参加していた可能性が報じられ、「反社」はいっそう多くの人が知ることばになりました。

『現代用語の基礎知識』を見ると、「反社会的勢力(反社勢力)」という項目が2015年版以来載っています。2010年代に一般化したことばと考えられます。2019年に至り、略語の「反社」が、国語辞典に載せてもいいほど知られるようになりました。ただし、一般の使用頻度を考慮して、同じく反社会的な「あおり運転」よりも下位の4位に置くことにします。

5位 サブスク

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

サブスク〈名〉[←subscription]会員となってある期間分の定額料金を支払えば、その期間内は提供されている製品やサービスをいくら使っても、追加課金がないというシステム。定額制。「━にない楽曲」[音楽配信や動画配信などのサービスをはじめとして、さまざまな分野に広がりつつある。subscriptionのもとの意味は「会費」]

「負のことば」についてはここで一旦休みにして、5位には「サブスク」を入れました。「サブスクリプション」の略です。もともと「定期購読」などの意味を表すカタカナ語でしたが、今世紀になって定額サービスの意味が一般化しました。『コンサイスカタカナ語辞典』では2005年の第3版からその意味が記されています。  

その定額サービスの内容が、最近になってきわめて多様化しています。ネット上での雑誌の読み放題、音楽聴き放題にとどまらず、月々定額でいろいろな服が着られるとか、新車に乗り放題とかいったサービスもあります。ウェブでの検索件数も、2019年あたりから急に増えました。「—ペイ」と同様、消費形態の変化を表すキーワードとして、ただしことば自体は以前からあることを踏まえて、5位にしておきます。

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