「今年の新語2018」の選評

2. 「映(ば)える」による新展開

大賞 ばえる(映える)

三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2018」大賞「大賞 ばえる(映える)」

大賞に選ばれたのは「(ば)える」(以下「ばえる」)でした。SNSに投稿した写真などが鮮やかで際立っている場合や、思わずSNSに投稿したくなるほど、ものの見映えがよく感じられる場合に使います。  

先に述べたとおり、前回の投稿で最も多かったことばは「インスタ映え」でした。インスタグラムに載せた写真が美しく映えることですが、前回、入選はしませんでした。国語辞典では「インスタ(グラム)」「映え」の2つの項目があれば説明できるし、「SNS映え」という、より総称的なことばもあるからです。  

ところが、その後、事態は新たな展開を見せました。「インスタ映えする」「SNS映えする」の「ばえ」が独立し、名詞「ばえ」や形容動詞「ばえな○○」、とりわけ、動詞「ばえる」が浸透してきたのです。  

ユーチューブなどの動画を観察すると「ばえる」の活用は多彩です。「ばえないよ」「ばえてるよね」「ばえた」「ばえそう」「ばえるね」など、いろいろな形があります。動詞として普通に使えることが分かります。  

意味も、「インスタ映えする」からは変化しています。SNSに投稿しなくても、景色や小物、スイーツなど、見映えがいいものを「ばえる」と表現します。ただし、撮影・投稿したいほど、という語感があります。  

見映えをプラス評価することばは、古典の時代から「うるはし」「おもしろし」「きよらなり」など多くあります。この古くからの流れの最先端に、新たに「ばえる」が加わった格好です。みんなで共有したいほどの美しさを表すという、SNS社会ならではの感覚を象徴する新語であり、大賞にふさわしいと評価されました。  

この「ばえる」は、漢字では「映える」と書いて「はえる」と区別がつかないので、例を集めにくい面があります。私たちは目下、仮名書きの「ばえる」としては2017年以降の例を、音声としては2018年の例を採集しています。それ以前の例もあるかもしれませんが、普及したのは2017~18年頃と見ておきます。「今年の新語」では、「ばえる」は2018年に初めて投稿されています(投稿数で9位)。

「ばえる」は、ことばの形の面でも興味深いことがあります。大和(やまと)ことば(日本で生まれたことば)であるにもかかわらず、濁音で始まり、しかも、プラスの意味を表しているという点です。

もともと、大和ことばが濁音で始まることはまれでした。「ばら(薔薇)」は例外のように見えますが、古い形は「いばら・うばら」です。ただ、俗語の場合は、最初の音を濁音にしてマイナス評価を表すことがありました。たとえば、「様」から来た「ざま」、「擦(す)れる」から来た「ずれる」、「振れる」から来た「ぶれる」などです。  

ところが、「ばえる」は、濁音で始まるのに、プラス評価を表します。濁音によって「映える」様子を強調する結果になっています。以前、カラー印刷機の広告に「どキレイ」というのがあり、悪いイメージの「ど」をプラス評価に使っていることが話題になりました。「ばえる」にも、「どキレイ」と同様の効果が感じられます。

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