2015年の選評

2. 全員が選んだ「じわる」

大賞 じわる

今回、堂々の大賞に選ばれたのは「じわる」でした。「面白みなどがじわじわと感じられる」という意味。「じわじわ来る」とも言います。マスコミで新語として報道されたのを見たことはありませんが、インターネットで多くの人と交流している人なら、よく知っているのではないでしょうか。

選考委員が「じわる」を初めて把握したのは2014年10月のことでした。当時、ネット上では「『じわる』ってどういう意味ですか」という質問も見られ、まだ耳慣れないことばという感じもありました。今年になると、たとえば、ツイッターで面白い画像を見た人が「じわる」と評するといった例が格段に多くなりました。「Googleトレンド」でも今年から検索件数がぐんと伸びています。

選考委員が「じわる」に特に注目したのは、今のネット社会でどういうものが喜ばれているかを端的に表すことばだからです。SNSなどでは、ちょっと人目を引くものがあると、すぐ反射的に「いいね」ボタンが押されるという印象があります。その一方で、時間をかけてゆっくり面白さが味わえるモノや話題も求められます。頭や心でしみじみ面白いと思う、そういった状態が「じわる」によって表されます。

今回、選考委員は、それぞれ別個に候補語を検討し、点数化していきました。編集部案などを合わせて、重複分を除いても500語以上の候補語があるので、互いになかなか一致することはないのですが、「じわる」は選考委員全員が選び、高得点をつけました。大賞にふさわしいことばです。

ことばの構成の面から見ると、「じわる」には面白い特徴があります。「じわじわ」というオノマトペ(擬態語)に、動詞化する語尾「る」がついています。こういう作り方のことばは、探してみると、あるようでないものです。

「とろとろ」から「とろける」、「がたがた」から「がたつく」、「きらきら」から「きらめく」というように、オノマトペに「ける」「つく」「めく」などをつけて動詞化することはよくあります。では、「る」1文字だけをつける例はどうか。

探してみると、「てかる」(=てかてか光る)、「ぼこる」(=ぼこぼこに殴る)、また、明治以来の古いことばで「てくる」(=てくてく歩く)などがあります。それでも、数としては、一般に使われている「オノマトペ+る」のことばは多くなさそうです。

ただし、歴史的に見れば、「光る」は「ひか」(=ぴかぴか)に「る」がついたものと考えられるし、近世に例のある「へたる」も「へたへた」と関係があるのでしょう。「じわる」も、伝統的なことばの作り方にかなってはいるのです。

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