2016年の選評

3. 形容詞が上位に並んだ

2位・3位には、「エモい」「ゲスい」と、形容詞(「~い」の形を取ることば)が仲よく並びました。べつに意図したわけではありません。昨年、形容詞はランクインしませんでしたが、今年は健闘したと言えます。

2位 エモい

『新明解国語辞典』風

エモ・い (形)〔emotionを形容詞化したものか〕 〔音楽などで〕接する人の心に、強く訴えかける働きを備えている様子だ。「彼女の新曲は何度聴いても━ね」

2位の「エモい」は、エモーショナル、つまり感情が高まった状態になっていることを表す形容詞です。2006年に出た『みんなで国語辞典!』(大修館書店)には〈感情的だったりテンションが高くなっている状態〉として報告されているので、遅くとも10年前には使われていたことが分かります。

ただし、知られたことばではありませんでした。『現代用語の基礎知識』が掲載するのは10年版からで、しかも12年版からはパンクロックの一種、エモーショナル・ハードコアの略称「エモ」の形容詞形として載るに止まりました。15年版から〈「ヤバい」を越える感動や感激の気持ちを表す〉としてまた載るようになりました。

一般での使用も、10年代になって増えています。今年も「エモい曲」「冬はエモい」など、非常に多くの例が見られました。「ほぼほぼ」に次ぐ順位に置くのが適当です。

日本語では、「四角な→四角い」「黄色の→黄色い」というように、「特別ではなく普通の日本語の一員になった」と感じられる場合、形容詞化が起こることがあります。ただ、外来語が形容詞化することは大変少なく、1970年代末の「ナウい」、現在の「エロい」「グロい」ぐらいしか例がありません。「エモい」は稀な例と言えます。 「エモい」は、感動・寂しさ・懐かしさなど、漠然としたいろいろな感情表現に使われます。古代には、これとほとんど同じ用法を持った「あはれ」ということばがありました。「いとあはれ」と言っていた昔の宮廷人は、今の時代に生まれたら、さしずめ「超エモい」と表現するはずです。

3位 ゲスい

『三省堂国語辞典』風

げす・い[ゲスい](形)〔俗〕ゲスな感じだ。下品だ。やりかたが きたない。えげつない。「―下(シモ)ネタ・―質問」〔江戸時代からあり、二十一世紀に はいって特に多く使われる ことば〕

3位の「ゲスい」は、「下品だ」「やり方があくどい」という意味で使われます。関西弁なら「えげつない」と言うところです。カタカナを含みますが、外来語ではありません。漢字では「下種い・下衆い」と書きます。身分の低い者を表す「下種(げす)」の形容詞化で、歴史的には、江戸時代にすでに例があります。

その後、現代に至るまで、「ゲスい」の例は、あるにはあったものの、あまり目立ちませんでした。

変化が起こったのは、まさに今年になってからです。タレントの不倫問題が週刊誌で書き立てられ、一方のタレントが属していたバンドの名を取って「ゲス不倫」と言われました。この出来事が「ゲスい」の使用頻度を押し上げたことは、インターネットでの検索数の変化からもはっきり分かります。

長い歴史がありながら、少し前まで必ずしも常用語でなかった「ゲスい」でしたが、一種のリバイバル現象を起こして、若い世代にもなじみのあることばになりました。今年の新語の上位にあっていいことばです。

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