2016年の選評

5. 略語形が物語るモノの定着度

7位 VR

『新明解国語辞典』風

ブイ アール 【VR】〔← virtual reality〕 想像することはできるが現実には存在しない事柄を、コンピューターを操作することによって、あたかも実在するかのような、視覚的・聴覚的に捉えられる映像によって表わすこと。また、そのための技術。「━によって再現された南米の古代都市」

7位の「VR」。「バーチャルリアリティー」(仮想現実)の略語形です。1990年代半ばに出た国語辞典には、すでに「バーチャルリアリティー」の項目があり、略語形「VR」も示されています。ただ、従来、「VR」はいわば辞書の中だけの存在で、一般の人が使うことばではありませんでした。

ところが、その後、コンピューターグラフィックス(CG)の技術が進み、VRは現実と見紛うような画像・映像を表現することができるようになりました。今年10月には水中眼鏡のようなヘッドマウントディスプレイをつけてVRのゲームを楽しむシステムも発売されました。報道では「VR元年」の表現も使われます。

技術の進歩によって、私たちは誇張でなく、簡単に仮想現実を体験することができるようになりました。「VR」という略語形が一般化したことは、この技術が日常生活に定着したことを物語っています。

8位 食レポ

『三省堂国語辞典』風

しょく レポ[食レポ](名・他サ)料理を食べてみた感想のレポート〔=報告〕。食リポ。〔テレビから出て、二〇一〇年代に広まった ことば〕

8位の「食レポ」は、もとはテレビ業界で使われ出したことばです。レポーターがおいしい料理を食べて、その感想を見ている人に伝えることを指しました。映像の場合は「食リポ」と言うとの意見もあります。

テレビで「食レポしてください」などと言っているのを聞いて、一般の人も使うようになりました。2015年に出版された辞書に関する本の中では〈「食レポ」を見出し項目にしている小型の国語辞書は少ない〉と指摘されています。少ないというより、まだないかもしれません。

選考委員の一人は、今年、小学生の娘が携帯用ゲームをしながら「登場人物が食レポをしている」と言うのを聞きました。子どもでも「食レポ」を普通に使っている実例に接し、このことばが広く定着していることを実感しました。

9位 エゴサ

『三省堂現代新国語辞典』風

エゴサ〈名・他動サ変〉[←エゴサーチ]インターネット上で、自分の名前や運営しているサイト名などを検索して、その評判や評価を確認すること。「―したら、むちゃくちゃ書かれててまじへこんだわ」[「自己」を意味するラテン語egoと、「調査する」を意味するsearchから。近年は、自分以外のものを検索する場合も言う場合があるが、これは「マイカー」が他人の車についても言うようになったことと類似している]

9位の「エゴサ」は、「エゴサーチ」、つまり、インターネットで自分自身の名前やユーザー名などを検索してみることです。これによって、陰で悪口を言われているのを発見することもあるでしょう。「VR」と同じく、略語形が広まっていることで、こうした検索のしかたが一般化していることが分かります。

「エゴサ」の例は2010年代から多くなります。単に「自分で検索する」の意味で使う人も増えています。

10位 パリピ

『三省堂現代新国語辞典』風

パリピ〈名・自動サ変〉[←パーリー(パーティー)・ピーポー(ピープル)]パーティーのような、はなやかで盛り上がることのできる場を好むひとびと。また、そのような場に集う陽気で社交的なひとびと。「自宅系―・こんど―しない?[=こんど、パーティーで大盛り上がりなひとにならない?]」[英語partyの発音が「パーリー」と聞こえるところから]

トップテンの最後を飾る「パリピ」。「パーティーピープル」の略語です。2010年の週刊誌に〈中に入ると、派手なパーティピープルが続々集結〉とあり、パーティーで騒ぐ人たちを指したことが分かります。「今年からの新語2014」では「パーティーピーポー」の形で投稿がありました。その後、「パーリーピーポー」と英語ふうに発音され、さらに省略されて「パリピ」に。省略とともに意味も変わり、単に盛り上がるのが好きな人を指すようになりました。動詞形「パリピる」、形容動詞形「パリピな」もあります。

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