「今年の新語2018」の選評

5. 「肉肉しい」で誤解は起こるか?

6位 肉肉しい

『新明解国語辞典』編集部

にくにく し・い5【肉肉しい】(形)〔特に牛などの赤身の肉料理で〕量感に加えて質感までもが強く感じられ、見るからに、肉のうま味や食感などが好ましく感じられる様子だ。〔近年の言い方〕「ワインに合う━一皿を豪快に味わう/━ハンバーグ」 ━さ5

6位の「肉肉しい」は、「憎憎しい」と同音になっている点で、面白いことばです。「いかにも肉のおいしさが感じられる」というプラス評価のことばが、「憎憎しい目で眺める」のように嫌悪感を表すことばと同音とは……。「誤解が起こる元だ」と批判する向きもあるかもしれません。

ただ、「肉肉しい」は、肉料理が食べたいとか、現在食べているとかいう状況でしか使われないので、意味の混乱はさほど心配しなくてもよさそうです。むしろ、「憎らしいほどおいしそうな肉」という語感もあるので、今後とも人々に愛用されていくのではないでしょうか。  

このことばは、2018年に突如として検索数が増えました。というのも、グーグル(検索サイト)のCMで「肉肉しい料理食べたい」「そしたらさ、『肉肉しい料理の店』で検索してみる?」という会話とともに、このことばを検索する様子が映し出されたからです。音の響きの面白さに加えて、多くの人が「肉肉しい」を検索した(つまり、このことばを使用した)ということで、「今年の新語」に入りました。  

なお、国語辞典の見出しならば、多くは「肉肉しい」となるはずですが、一般には「々」を使って「肉々しい」と書くのが自然です。もっとも、グーグルのCMも「肉肉しい」でした。  

7位 マイクロプラスチック

『大辞林』編集部

マイクロ プラスチック8〖microplastic〗 大きさが五ミリメートル以下の微細なプラスチック。ペットボトル・レジ袋・ストロー等のプラスチック製品が海洋に流入し、波や紫外線等によって劣化し、砕けたもの。大量に存在することが知られるようになり、深刻な環境汚染の原因として近年問題になる。

7位の「マイクロプラスチック」は、近年、深刻な環境汚染源として問題になっています。プラスチックごみが海の中で微細な破片になり、有害物質を含んだまま沖合に流れて、生態系に悪影響を与えるといわれます。  

この問題に関して、2018年に大きな動きがありました。6月に米ハンバーガーチェーンが一部の店でプラスチックストローの提供廃止を表明するなど、マイクロプラスチック問題を考慮した動きが広がりました。  

ストローを廃止するだけでいいのか、という疑義も呈されていますが、一連の動きにより、環境問題に関心が集まったことも事実です。マイクロプラスチック問題は短期間での解決は難しいと見込まれるため、今後の国語辞典に、このことばを載せないわけにはいかないでしょう。  

8位 寄せる

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

よ・せる[寄せる](他下一)性格が近いものにする。似たものにする。「俳優が原作に寄せた演技をする」〔二〇一〇年代からの用法〕

8位の「寄せる」は、ごく基本的な動詞ですが、近年になって新しい用法が生まれています。「性格が近いものにする」「似せる」と置き換えられる用法です。たとえば、「アニメの設定を現実に寄せた(=似せた)ものにする」「お母さんのレシピに寄せて(=レシピをまねて)ギョーザを作る」のように使います。  

こうした「寄せる」の用法については、私たちは2011年の例を採集しており、「今年の新語」でも第1回から毎回投稿があります。これまでランクインしなかったのは、すでに辞書に書いてある「近づける」という意味で解釈できると考えていたからです。しかしながら、上記の例のように、やはり「近づける」とは別の意味と考えるべき例が多いため、今回、広い意味での「新語」と考えて、8位としました。

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