明治・大正・昭和の新語・流行語辞典

品切れ
定価
2,420円
(本体 2,200円+税10%)
判型
A5判
ページ数
336ページ
ISBN
4-385-36066-9

明治元年から昭和64(1989年)までの、新語・流行語を、各年別に紹介したもの

米川明彦 編著

  • 明治元年から昭和64(1989年)までの、新語・流行語を、各年別に紹介したもの。
  • 一年を見開き構成で、その年に生まれたことば、流行したことばを解説する。
  • その年の主な出来事も掲載し、ことばからみた明治・大正・昭和の世相がみてとれる。

特長

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編著者紹介

米川明彦(よねかわあきひこ)

1955(昭和30)年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。梅花女子大学教授。専門は、俗語研究・手話研究・聖書研究。

編著書:「新語と流行語」(南雲堂)、「若者語を科学する」(明治書院)、「現代若者ことば考」(丸善)、「明治・大正新語俗語辞典〔新装版〕」(共編、東京堂出版)、「若者ことば辞典」(東京堂出版)、「集団語辞典」(東京堂出版)  「手話ということば」(PHP研究所)、「日本語―手話辞典」(全日本ろうあ連監)、「新約聖書のキーワード」(新生宣教団)ほか。

はじめに

 本書はわが国初の明治から昭和の三代にわたる一二二年間の新語・流行語を年代順に並べ、資料として役立つように記述したものである。今までに明治時代の、あるいは明治大正時代の、あるいは昭和時代の、あるいは平成時代の、また二〇世紀の新語、流行語の辞典類が出されているが、明治から昭和をまとめたものはなかった。それゆえ本書は最初であり、特徴の第一はここにある。

 私は以前、『新語と流行語』(南雲堂、一九八九年)という研究書を出した。これは明治から昭和にわたる新語と流行語を分析したものだが、近代が中心で、現代についてはあまり触れなかった。また辞典のように網羅的に取り上げることはしなかった。そこで、今回、現代までの新語、流行語を年表風にして、その年にできた新語、その年にはやった流行語という視点で、年代がはっきりわかっていることばをできるだけ集めた。そして記述する際にはできるだけその当時の資料から収集した用例を引用するようにつとめた。また、当時を回顧した資料からも用例を引いて、そのことばの使い方、意味、ニュアンス、背景などをわかるようにした。今までに出された新語・流行語辞典類は一部を除いて、用例が乏しく、孫引きであまり信頼ができなかった。本書はこの用例が最も重要かつ中心になっている。『日本国語大辞典第二版』に載せられていない用例を非常に多く掲載している。本書の独自性がここにある。これが本書の第二の特徴である。

 ことばには由来がある。そこで、何からの訳語かわかるものはその原語を記し、造語者がわかるものは氏名を記し、さらに初出がわかるものは資料と年月日を記しておいた。

 従来、年鑑類に出ていた年ごとの流行語の一覧をそのまま鵜呑みにしたものが多かったように思う。用例を集め検証しなかったため、まちがいを踏襲していたようである。本書はことばの用例からそれを見直し、適切な年に配置した。

 本書は三代の「ことばの年表」である。自分が生まれた年にどんな事件が起き、どんなことがはやり、どんなことばが使われていたのかは関心のあるところである。そこで、ことばの記述とともにその年の主なできごとも年表にして掲げた。各年の下段の「できごと」、流行した「うた」や話題の「ほん」、「はじめて」などの作成にあたっては三省堂の協力をえた。

 ところで、ことばにも軽重がある。流行語には、その年の代表的なことばもあれば、さほどでもないことばもある。本書は原則として見開き二ページで一年とし、主要なことばはここに挙げたが、そうでないことばやここに収まりきれないことばは巻末の補遺編に掲げた。新語に関してはいつできたかが重要なので、流行語と違った基準で本文に掲げたが、やはり収まりきれないことばは補遺編に回した。したがって、その年のことばは二ページ構成の本文と補遺編と、両方を見てもらう必要がある。

 最後に「新語」「流行語」の定義を書いておこう。「新語」とは、新しくその言語社会に現れた語で、これには二種類あり、ひとつは全く新しく造られた「新造語」であり、もうひとつは既存の語の語形・意味・用法を変えたり、合成したり、借用したりしてできた語である。

 「流行語」とは、その時代に適応して、きわめて感化的意味が強く、広く人々に使用されたことばである。流行語は必ずしも新語とは限らない。以前からあることばが突如流行語になることがしばしばある。また、新語の多くは流行語とはならない。新語が流行語になるのは新語として出現し広く人々の口にのぼった場合である。なお、流行語は必ずしも「語」ではなく、「句」や「文」であることもある。

 出版にあたり三省堂の萩原好夫氏にお世話になったことに感謝を申し上げる。

 本書が、広く人々に親しみをもって読まれることを期待しつつ、はじめに記す。

2002年 8月

米川明彦

内容見本

見本ページ

【ケ・セラ・セラ】

 スペイン語で「なるようになるさ」の意。アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『知りすぎていた男』の主題歌で、流行語になった。▼『平凡パンチ』(一九七三年四月九日号)に映画評論家近藤道郎が「この年封切られた、ヒッチコックのスリラー映画『知りすぎていた男』の中で、ドリス・デイが同名の主題歌を歌ってから流行。本当はこれより以前、エバ・ガードナー主演の『裸足の伯爵夫人』でセリフとして使われていますがね」と述べている。▼『新週刊』(一九六二年二月八日号)に「右にも左にも行けない無気力な青年たちは“ケ、セラ、セラ…”と合唱した」とある。

【低姿勢】

 夏から秋にかけて労働運動が不調になった頃、総評主流派幹部によって唱道された闘争の仕方の一つで、当分姿勢を低くして、資本の攻勢、組織の弱点と戦わなければならないとする主張。元は軍隊用語。▼一九六0年、池田内閣は「寛容と忍耐」を唱え、「低姿勢」をモットーとした。

【よろめき】

 三島由紀夫『美徳のよろめき』(一九五七)から生まれた流行語。女性の不貞、浮気を指す。この小説は出版されるとたちまちベストセラーとなり、同年一〇月には日活で映画化された。「よろめき」も流行語となり、「よろめき夫人」「よろめきマダム」「よろめき族」「よろめきドラマ」「よろめき文学」「よろめき小説」などの語が生まれた。戦後の性の解放と、不貞を物につまずきよろめく程度の軽い行為としたところに流行した理由がある。

【才女時代】

 この年、曽野綾子・有吉佐和子・原田康子などの若い女性作家が活躍し、マスコミに取り上げられた時、文芸評論家臼井吉見が「才女時代」と名づけ、翌年に渡り、「才女」が流行語となり、「才女ブーム」となった。▼『週刊女性』(一九五七年一〇月三日号)に「評論家の臼井吉見氏にいわすと『才女時代』なんですって(略)いわば才気で文壇へ出た人たちである」とあり、『朝日新聞』(一九五八年四月一〇日天声人語)に「才女時代だという。ちかごろは全くえらい女性がふえてきた。ペン一本を握ってスイ星のごとく現われ、長年文筆で苦労した男性作家をシリ目に超ベストセラーを生み出す女性もいる。(略)やはり戦後の女性解放がこれほど目ざましく女性の社会的進出を促したのだろう」とある。▼原田康子の『挽歌』がベストセラーであった。

メディアでの紹介

『読売新聞』2002年10月16日で”新語・流行語辞典」刊行/米川・梅花女子大教授に聞く/明治―昭和を解説、社会の変化、忠実に反映” として、以下のように取り上げられました。

 収録された語彙や文は千五百あまり。膨大な新語・流行語の中から、作られた年、流行した年が文献によって特定できるものだけを選んだ。用例を付け、だれがいつ、どのメディアで使い出したのか、由来をできる限り明らかにした。

 米川教授は「この百年あまりで最も目立つのが『もの』から『こと』を表す言葉へという流れ。明治初期には、欧米から入ってきた品物や概念を表す言葉が多く作られた。自転車、蒸気車、瓦斯灯、あるいは文明、版権(後の著作権)、世紀、社会などです」

 こうした造語を生み出したのは欧米事情に詳しい洋学者や、漢字の知識の豊富な漢学者たちだった。

 ところが、時代が下ると「もの」の輸入は減り、代わりに新しい「こと」を表す表現が必要とされるようになった。

 「すでに存在する言葉の意味をずらす『転義』や、二つの語を組み合わせる『合成』によって『こと』を表した。担い手は主に新聞、雑誌、テレビ、広告などのマスコミ。それにともない風俗的な新語・流行語が増えたのです」

 例えば、評論家、立花隆の著書「田中角栄研究-その金脈と人脈」によって「金脈」は単なる金属の鉱脈の意から資金源を指す言葉へと転義した。航空機の接触事故で知られるようになった「ニアミス」は人間関係に転用された。「ワンマン」「マッチポンプ」などは合成の例だ。

 「男女それぞれについての言葉も変化してきた。女性に関する新語・流行語は、時代にかかわらず多い。ところが、男性に張るレッテルが登場するのは戦後になってから。女性は、一方的に見られ、名づけられる存在だったが戦後、やっと対等にしようという意識が持たれ始めたのです」

 女性に関する言葉は明治から現代まで、さまざまだ。「束髪(洋髪のスタイル)」や「吾妻コート(和服用外套)」など外見をいう言葉、「海老茶式部(女学生)」や「キャリアウーマン」など職業に関する言葉、「キャピキャピギャル」「オバタリアン」のように年齢を表すものもある。

 男性の方は戦後に「ロマンスグレー」という言葉が現れ、バブル期には「ミツグ君」「アッシー君」などの新語が頻発した。ただ、「景気がいい時期には、消費者として若い女性がもてはやされ、彼女らによる造語がはやった。それが必ずしも男女平等を表したとは限りません」。

 戦争用語が多いのも近代の特徴だ。「『少国民』『贅沢は敵だ』など、次々現れる言葉を追っていくと、近代日本がいかに多くの戦争をしてきたかが分かる」

 また、政治の言葉は「昔は『板垣死すとも自由は死せず』『民本主義』など、政治理念を表すものが主流だったが、近年は『私は嘘は申しません『アーウー』のように、政治に直接関係のない発言をマスコミが取り上げ、流行語にするケースが目立つ」と米川教授は指摘する。

 言葉の比重が社会中心から個人中心へ、生産から消費へと移った結果、現代は、かつてないほどの言葉遊びの時代となった。今後、どのような新しい言葉が生まれ、流行するのか。言葉に注目することは、その社会を読み解くことに通じる。

『産経新聞』2002年10月6日で取り上げられました。

 

明治元年から平成元年までの百二十二年間に現れた新語・流行語を、各年ごとに見開き二頁で紹介する。併せて下段にはその年の主な「できごと」、流行歌や書籍などの「うた」 「ほん」、新制度・新発売などの「はじめて」が年表風に挙げられる。見開きに漏れた言葉は巻末「補遺編」に。  

明治元年には「御一新」「羅卒」など。維新の語が定着する以前、庶民は政変を「御一新」と呼んでいたそうだ。  明治六年には「血税」。この年に徴兵令が布告され、兵役義務のことを金ではなく血であがなう税としてそう呼んだが、庶民は「生き血を抜かれる」と誤解した。  

まさに「ことばは時代をうつす鏡」、どのページから読んでも面白く、ためになる辞典である。