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「草書検索字典」について

まえがき

本書は、草書を検索するための字書であります。解りやすくいえば、目の前にある一字の草書を見て、この字は明朝体の活字にするとこの字であると示してくれる本であります。したがって、書家が座右において、自分が書きたい草書を探す目的で、まず明朝体の活字をひき、その活字の下にあるいろいろの草書の形を求める「書道字典」という類いの本とは全く逆の目的の本であります。

さて、草書は、日常隷書を書いていた後漢の頃に、楷書と前後して生まれ、南北朝の東晋では既に立派な形として整い、隋や初唐に至って大きく華ひらいた書体であります。その後に創られた新しい字や、譌字(カジ、うそ字)から派生した草書まがいの字は、これを含まないのが一般であります。

現在では、もう既に草書は実用的には書かれなくなり、狭い書道界の人たちの間で、読む・読めるの思惟から離れて、芸術的表現の材料になってしまっています。すなわち、草書を書いていた日本人、および漢字圏の中に生きてきた先人たちと、私たち現代人との間に完全なる断絶が生じてしまっているのであります。

しかし一方では、印刷技術の進歩や、パソコン・インターネットなど情報機器・手段の目ざましい発達によって、居ながらにして、古典や過去の古文書・記録などを容易に目にすることが可能になりました。そうなりますと、当然、それらの中にある草書が読みたくなったり、現在の活字に置き換えておきたいという気持ちや必要が生じてきましょう。

そのような場合に他人に教えてもらうのではなく、みずからの力でその草書を読み明かし、先人たちや父祖の残したものを読み解くことができる喜びを、この検索字典が与えてくれるものと信じます。

平成十九(二〇〇七)年七月二十日
本書の発刊が間近になった、私の九十二歳の誕生日に

江守賢治