三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺
ヴィスタ英和辞典
初級・中級の英語学習者を援助する
「新しい英和辞典」!
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基本から英語が学べるように、工夫をこらした学習英和辞典。
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総項目数31,000項目。
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和英インデックス約6,000語を収録。学習に役立つ楽しいフォーラム欄。
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重要基本語約5,800語は、見やすい色文字で表示。
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発音にカタカナ発音を併載。
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最重要項目の語義を表形式で記載。豊富で分かりやすい用例。
特長
さらに詳しい内容をご紹介
わからないから、つらかった
わかる英語はこんなにたのしい!
×難読な発音記号
⇒ ◎わかりやすいカナ発音
×見つけにくい意味
⇒ ◎細分化しない簡潔な意味
×複雑な記号類
⇒ ◎ひと目でわかるマークで分類
×なぜこう訳す?
⇒ ◎対照できる「意味」と用例の訳
×ただ難解な文法
⇒ ◎読んで楽しいフォーラム
まえがき
「初級・中級の英語学習者の学習を援助する「新しい英和辞典」を作ってほしい」と三省堂から依頼を受けたのは、確か1983年の暮れだったと記憶する。それから10数年。ようやく、ここにこの『ヴィスタ英和辞典』の誕生の日を迎えることとなった。私にはいままでにもいろいろとうれしいことは数多くあったが、この『ヴィスタ英和辞典』の誕生が、その最大のよろこびのひとつであることはまちがいない。
私が「英語教育学」あるいは「英語授業学」の構築を目指すようになったのは、1960年に刊行された中学校英語教科書 New Approach to English(大修館書店)の教師用書執筆にかかわるようになってからである。そして、さらに、1964年から中学校英語教科書 The Junior Crown English Course(三省堂)の編集作業の一端のお手伝いをする機会を与えられたこと、また1975年から中学校英語教科書 The New Crown English Series(三省堂)に代表著者のひとりとしてかかわることができたことは、この私の志のためにも非常に幸運なことであった。
それは、現実に、日々、中学校で教鞭をとっておられる先生方との直接の接触の機会が非常に多くなったということである。北海道から沖縄まで、さまざまな形の研究会、研修会、あるいは講習会に、さまざまな資格で参加することができた(示範授業の経験は数百回に及ぶ)。そして、中学校の英語教育がかかえているさまざまな問題あるいは悩みを、直接に先生方から聞くことができたのであった。
その後、高等学校英語教科書 The New Century English Course(三省堂)や Select Oral Communication B(三省堂)の執筆・編集を通じて、高等学校の英語教育がかかえている問題にも触れることができたのであった。
そういう経歴から学んだことであるが、それは、「語」の指導のむずかしさである。「言語材料」である「発音」「文法」「文字」「符号」などについては、もちろん「完成」とは言えないけれども,それぞれなりに指導法がある程度は確立し(あるいは確立し始め)ている。しかし「語」(連語も含めて)の指導法は,その緒についたとも言えないというのが実情である。学習者たちからは「単語はどうやって覚えたらいいのですか」という悩みの声が毎日のようにあがる。
この悩みの原因のひとつとして考えられるのが英和辞典である。「語」を指導するために教師も辞書をひく。学習者も「語」の意味を知るために辞書をひく。が,従来の英和辞典の多くは,「語義」あるいは「品詞」を繁雑に区分けし、また、語法や用法の説明のために複雑な記号類を使い過ぎているということがあり,これが,学習者にとっての学習上の「負担」であり,同時に教師の指導法を誤らせていると考えるようになった。この『ヴィスタ英和辞典』が心掛けたその最大の努力は,辞書をひいて英語を学ぼうとしている学習者の「辞書をひく」負担をできるかぎり軽減するということであった。そして,このことが教室における「語」の指導法の開発のために資することになるのではないかと考えた。
さて,この『ヴィスタ英和辞典』を完成するにあたっては、数多くの方々にお世話になった。編集委員会に参加してくださった諸君はもちろんであるが,執筆協力者,編集協力者として参加してくださった方々,用例執筆・用例チェックをしてくださった方々にお礼申し上げる。
もうひとつ,この辞書の完成にあたって感謝しなければならない方々がいる。それは、東京都文京区立第六中学校,群馬工業高等専門学校,東京工業高等専門学校,東京学芸大学,東京外国語大学,都留文科大学,拓殖大学で,私の授業に参加した生徒・学生・院生の諸君である。授業を通じて,教師である私がどれほど多くのことを学んだことであろう。
まだある。私がいま所属している「財団法人語学教育研究所」。ここに集まる教師諸君との数々の共同研究を通じて学んだことはあまりにも大きい。そして、COFS(これは,私の家で,年12回開いている勉強会で,まもなく200回になる)に集まる諸君の知恵にも感謝しなければならない。
この辞書は、その完成までに,10数年というとんでもない年月がかかってしまった。これは、もっぱら私の怠慢と試行錯誤の繰り返しが原因である。そして、私は、ここに改めて、その私の異常な怠慢と試行錯誤に耐えてくださった三省堂に感謝する。この『ヴィスタ英和辞典』の完成にあたり、もっとも感謝しなければならないのは、三省堂英語辞書編集部の方々である。お名前を挙げれば、松原邦夫、山口英則、西垣浩二の各氏で、特に、松原邦夫氏には、私の仕事が混乱状態になったときに救いの手をさしのべていただき、また、山口英則氏には、ときに頭の回転がにぶくなる私に貴重なアイディアを提供していただいた。改めてお礼を申し上げる。
最後になったが、私の英語教師修業を常に厳しくそして温かく導いてくださった恩師・故小川芳男先生(1990年7月31日逝去)には心よりお礼を申し上げなければならない。そして、ご生前にこの辞書をお目にかけられなかった私の怠慢をお許しいただかなければならない。
私の、日本の英語教育とのかかわりは、まだ終わってはいない。むしろ、これからであろうと思っている。そして、この『ヴィスタ英和辞典』の内容を、英語学習者のためにさらに十分に奉仕するものにするというのも、その「かかわり」の重大なことのひとつであると覚悟している。
1997年10月1日
『ヴィスタ英和辞典』刊行
(「ぶっくれっと」1998 JANUARY No.128より)
今度の『ヴィスタ英和辞典『は「読む辞書」を目標としました。そうは言っても、辞書を気楽に読むということはなかなかできませんから、では読める部分をつくろうと、見開き右ページに「フォーラム」というコラムを設けたんです。ここに、たとえば「have toとmustはどう違うか」といった英語の語法に関係することがら、あるいは文法に関する情報、あるいは背景的知識を書き込む。英米の軍隊の階級を取り上げて、ついでに自衛隊の階級も入れてみたり。これは英米で違うし、また陸、海、空軍で違います。
背景的なものではイギリス文学史、アメリカ文学史を一覧表にしました。こんな人がこんな小説を書いたというだけのものですが、独断と偏見でまとめた。それからよくわからない話、たとえば日本のミカンに相当する果物のことを英語で何というか。orangeでいつもすんでしまうというものではないんですね。mandarin、tangerine、satsumaと、このmandarinは中国に由来する。tangerineはアフリカのタンジール産ということで、satsumaはもちろん薩摩です、薩摩からイギリスに温州ミカンが伝わった。ところでこの温州とはどこか。中国ですね。日本のミカンになぜ中国の地名がついたか。ということを、これは農水省の人にも尋ねたりしました。
こういう記事があることで、読んでみようという気をおこしてくれたらしめたもの。事のついでに、残りの辞書本体に目がいけば、そこにも他の辞書にはない新しい情報がある。まあ、読んでもらう部分を足がかりに、辞書に親しんでもらいたいということですね。
二番目の特徴として、単語の意味(われわれは語義といってますが)をできるだけ減らそうとしたことがあげられると思います。減らそうといっても限度はありますけど、たとえばhaveの項、ふつうの辞書には20も30も意味が書いてありますね。それは、言葉の研究という立場からすれば、そうやって精密に分類、配列することは正しいでしょう。辞書学という、ぼくはよく知りませんが、その学問的立場からすれば正しいだろうと思います。
しかし、学問的に正しいということと学習辞典とは根本的に違うと思うんですね。学習者が使って、英語という言葉の勘どころをひょっとつかめる、それが学習辞典です。だから今度の『ヴィスタ『ではhaveの意味を二つだけにしてしまった。「(身近なところに)いる、ある」です。これでやってみると、一般動詞のhaveはもちろん、助動詞のhaveも使役動詞のhaveも処理できるんです。こういうコア・ミーニングというものを研究する人も最近ふえてきましたので、その研究の成果を参考にさせてもらったところもあります。ですから、
I have a bike. 私には自転車があります.
となる。「持っている」という訳語はダメです。「手に持っている」と思っちゃう。
I have three brothers. 私には男のきょうだいが3人います.
「ある、いる」ですんでしまいます。(訳語にアンダーラインを引きました。)ぼくなんかも中学生のときに困ったのは、takeを引くと20も意味がある。「持って行く」と覚えて教室で訳したら、それじゃダメだ、もっと辞書の下のほうを見ろといわれるんだけど、20もある中からどれをとっていいかわからない。そういう生徒に、何かとっかかりのようなものを提供するために語義の数を少なくしようということですね。
この二つが一番大きな特徴と思いますが、あとはたとえば、われわれが逆矢印と呼んでいるもので、
I have a terrible toothache. ひどく歯がいたい. (←ひどい歯痛がある)
こんなふうに、訳文の中に語義にあげた語がないとき、どういう意味からその訳文が出てくるかを示した。これは、たとえばこういうことはよくあるんですが、ちょっと手元の辞書を引いてみると、hateの項に、「(人・動物が)目的語(人・物・事)をひどく嫌う」と書いてある。そして例文に、
She hates carrot. 彼女はニンジンが大嫌いだ.
つまり「ひどく嫌う」という訳語を与えながら、訳文にそれが出てこない。もちろん「大嫌いだ」でいいんですが、そんなとき逆矢印で「ひどく嫌う」をあげておけばわかりやすいのではないか。
いわゆる現在完了形でも『ヴィスタ』では、
They have started just now. 彼らはたったいま出発しました.(←出発したという状態がある)となっています。
もう二、三特徴をあげますと、これは協力者のイギリス人、アメリカ人のおかげですが、―ly副詞に用例をつけたことです。百パーセントというわけには行かないけれども、他の辞書に比べれば、はるかに多くの用例がついています。たいていの辞書は見出し語の中に、追い込みで―lyをあげて[副]と書いてあるだけ。これでは使い方がわかりませんね。
また、これも大変な作業だったのですが、形容詞と副詞の比較形、―er、―estがつくのか、more、mostがつくのか、それとも比較の形はないのか、という問題です。これも百点満点というわけには行かないでしょうが、九五点くらいかな、われわれが調査した範囲でわかったものは全部入れました。
他の辞書はけっこうずるくて、わからないと書かないんですね。だから生徒に、これは―erをつけるんですか、moreをつけるんですかと聞かれて、教師は困っちゃう。この『ヴィスタ』では思い切って、形容詞・副詞に比較の形を示しました。だからその形が書いてない単語は、比較の形がないということです。かなり大胆にやったことですので、いろいろご意見を寄せられるかもしれませんが。
最後に、発音表記にカナ発音を示したことをあげておきます。ぼくはべつに発音記号を嫌っているわけではないんです。ただ発音というのは結局、耳で聞いて覚えるしかないので、発音記号で覚えるのは無理だと思う。だから発音記号を読んでいるつもりでも、カタカナ発音と似たような発音をしている人が多いんですね。大学でも発音記号教育は十分に行われていませんし、高校の英語教師が高校生に対してきちんと教えているようにも思えない。
それだったら、どうせ不正確なことには変りがないんですから、読めないものを示しておくより、発音の手がかりになるカナを添えておいたほうがいいのではないか。ただし、その場合、カナ表記をできるだけ発音記号に近い音になるように表記したい。そのカナをみて何とか正確に発音できれば、ネイティヴにもわかってもらえるような、そういう表記ですね。
まあ全部のカナ発音を調べたわけじゃありませんが、tryは大体「トライ」でしょう。ぼくはこれを「ッラーイ」とした。このほうが英語らしい音になると思う。tenなどはつづりと発音記号が同じで、だから発音記号を示してもあまり意味がないんですが、これもカナ発音は「テン」が普通かと思います。ところが、英語のnの音はひじょうにねばっこい音なので「ン」より「ンヌ」にしたほうがよい。だからtenは「テンヌ」と、このほうが英語の発音に近くなってきます。
というようなことで、最初にあげた「フォーラム」欄以外は見てすぐに目立つという特徴ではないかも知れませんが、それなりの努力はしたつもりです。まずは使っていただいて、つまり読んでいただいて、ご意見、ご叱正をお寄せいただきたいと思っています。
(わかばやし・しゅんすけ 拓殖大学教授)