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第75回【緊急銃猟】きんきゅうじゅうりょう

筆者:
2025年11月24日

[意味]

危険鳥獣が人の日常生活圏に侵入した際、人の生命・身体への危害を防ぐために緊急的に銃猟を可能とする制度。

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クマによる人的被害が深刻になっています。環境省によると、2025年度の死傷者数は4~10月の速報値で196人と最悪のペースで推移。死者も11月17日時点で13人と過去最悪だった2023年度(6人)の2倍超となりました。クマの生息する山中ばかりでなく、人の生活圏での被害が目立つといいます。住宅街やスーパーといった商業施設などにクマが出没したとの報道が増え、「緊急銃猟」を見聞きすることが多くなりました。

新聞記事データベース「日経テレコン」で検索したところ、日本経済新聞で「緊急銃猟」が初めて紙面に出現したのは2025年7月16日付朝刊社会面の「クマ人里侵入 異例の事態」という記事。これは北海道で新聞配達中の男性がヒグマに襲われ死亡した事故などを検証したものでした。7月と8月は1件ずつの出現でしたが、改正鳥獣保護管理法の施行で「緊急銃猟」が始まった9月は8件と急増。10月の8件を経て11月は15件(18日現在)にもなり、今後も増えそうな勢いです。

「緊急銃猟」は①住宅や広場などに侵入またはその恐れがある②危害防止が緊急に必要③銃猟以外で的確かつ迅速な捕獲が困難④住民らに弾丸が当たる恐れがない――の条件を全て満たした場合に、市町村の判断で可能となる制度。対象はヒグマとツキノワグマ、イノシシで、11月17日までに10道県で30件が実施されています。

12月1日に発表される「新語・流行語大賞」。その候補30語に「緊急銃猟/クマ被害」もノミネートされました。繰り返されるクマ被害・駆除のニュースのことを考えれば当然といえるものでしょうが、人とクマの双方の生命に関わる問題だけに、胸の痛む思いです。新語や流行語に関しては、なるべく明るい話題で盛り上がれる社会になってほしいものです。

11月は18日現在

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える! 用字用語辞典 第2版』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。