「ナウい」は、1970年代の末に登場し、1980年代に入って流行したことばです。「新しい、現代的だ」という意味ですが、繰り返し使われているうちに、あまり新しいとも現代的とも感じられなくなって、流行は急速に衰えました。
『朝日新聞』1982年10月2日付けのサトウサンペイ「フジ三太郎」では、〈いつもナウいネ〉と話しかける課長に、女性社員が〈おくれてますネー〉と答えています。彼女によれば、〈今は「ナウい」のことは「イマい」というんですよ〉だそうです。
この話でも分かるように、「ナウい」の流行はわりあい短期間でした。ところが、『三省堂国語辞典』は、このことばをあえて取り上げました。1982年の第三版で「ナウ」の説明文の中に〈ナウい。〉と示した後、1992年の第四版では堂々と見出しに立てています。「フジ三太郎」の女性社員なら、「なぜ今ごろ?」と不思議に思ったかもしれません。
石山茂利夫『今様こくご辞書』(1998年)でも、「ナウい」はすでに古くさいのでは、との疑問が示されています。それに対して、『三国』編者の一人、柴田武は、〈古臭くなったと言うけれど、まだ、原義のまま使っている人もいるのではないか〉と答えています。
じつは、今回の第六版でも「ナウい」は削除されずに残りました。流行から30年近くが経っており、採否については内部でも議論がありました。それでも、結局、削らないことになったのは、最近の用例が少なからずあるからです。
たとえば、小説の例では、筒井康隆『巨船ベラス・レトラス』に〈あんたは現状を認めるのだけがナウいって思ってるんだろう。〉(文藝春秋 2007年初版 p.207)と出てきます。亡くなった黒川紀章さんは、2007年の参議院選挙に出て、これからは自分の新党が〈一番“ナウい党”になる〉とコメントしました(『スポーツ報知』2007.8.13 p.21)。
若い人の目に触れる文章にもあります。ギャル向けの雑誌『Ranzuki』では、〈ナウいTV番組を紹介するコーナ〔ママ〕ついにはじまったYo!〉(2007.11 p.109)と使っています。また、プロフ(自己紹介)の有名サイト「前略プロフィール」のトップページには〈個性を主張した楽しい自己紹介が、ナウい!〉とあります(2007.4.25確認)。
ふざけて言っている場合も含めて、「ナウい」はなお現代語として使われていると考えられます。「古くさいから、もはや死語だろう」と即断するのは危険です。