地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第73回 日高貢一郎さん:大分県豊後高田市の「方言まるだし弁論大会」

2009年11月7日

大分県の北部、丸く突き出た国東半島の付け根に、豊後高田市があります。
 最近は、「昭和の町」=古い町並みと外観がそのまま残る市内中心部の商店街=が、観光地として有名になってきています。

第25回「大分方言まるだし弁論大会」の一場面
【第25回「大分方言まるだし弁論大会」の一場面】
(画像はクリックで拡大します)

ここに、毎年10月に開催され、名物行事になっている方言のイベントがあります。
 「なんでんかんでん言うちみい 大分方言まるだし弁論大会」がそれで、昭和58年にスタート。ことしは10月18日(日)に開催され、数えて第25回。四半世紀の歩みを重ねてきました。(途中、“充電”のために2回ほど休んだ期間がありましたが…)

国東半島は、「六郷満山」と言われ、「仏の里」とも呼ばれて、仏教関係の史跡や観光スポットの多い地域ですが、地元の若者たちが、暮らしのことば=方言を活かして何か面白いことをやろうではないか、と“よだって”〔企画して〕始めたのがこの大会でした。

弁士1人の持ち時間は5分で、高校生以上なら誰でも応募できます。まずは発表する内容の要旨を400字詰め原稿用紙1~2枚に書いて応募し、原稿審査のうえ、毎年10人程度が本選に出場し、壇上に上ります。

420人を収容する市内でいちばん大きな会場=中央公民館は、早くから詰め掛けた人・人・人で、超満員。大ホールに入りきれない人のためにロビーのテレビモニターにも同時中継し、そこでもまた大勢の人が画面を見つめます。

審査のポイントは大きく分けて2つあり、「表現力」と「方言力」。弁論大会ですから、各自の言わんとする論旨を聴き手にわかりやすく訴えて、なるほどとうなずかせる「表現力」と「説得力」が必要なのは当然のことですが、この大会は「方言」の弁論大会です。従って、とりわけ「方言力」とその「活用力」が求められます。

いくら共通語でいいことを主張しても高い評価は得られません。さりとて方言は確かにふんだんに出てきたが何を言いたいのかよくわからない、というのではこれまた高い得点にはなりません。方言ならではの持ち味を十分に活かしながら、説得力のある話をしなければいけないわけで、「方言」をベースにしつつ、そのバランスを取るのがひと苦労です。

出だしは方言でスムーズに話し始めて快調に進んだものの、話が佳境に入るといつの間にか共通語になってしまい、ハッと気づいて慌てて方言に戻そうとするがうまく切り替えられずに四苦八苦。会場の爆笑を誘うシーンもまま見られますが、それもご愛嬌。
 次々に登壇する弁士による、熱のこもった方言での弁論が続きます。

この大会は、暮らしのことば=方言のもつユーモアやバイタリティー、気取らず飾らず、本音を率直に吐露するリアリティーなど、ふだんあまり意識することのない「方言」の持ち味や特長を、改めて見直す、得がたい機会になっています。

《参考》豊後高田市公式ホームページの「今日の出来事」 = //www.city.bungotakada.oita.jp/dekigoto/hougenmarudasibenron_20091018.jsp
に写真入りで紹介されています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 日高 貢一郎(ひだか・こういちろう)

大分大学名誉教授(日本語学・方言学) 宮崎県出身。これまであまり他の研究者が取り上げなかったような分野やテーマを開拓したいと,“すき間産業のフロンティア”をめざす。「マスコミにおける方言の実態」(1986),「宮崎県における方言グッズ」(1991),「「~されてください」考」(1996),「方言によるネーミング」(2005),「福祉社会と方言の役割」(2007),『魅せる方言 地域語の底力』(共著,三省堂 2013)など。

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。