「おいしい方言」と題して味覚に関わる各地の方言の使用例をとりあげ、連載する予定と前回お約束しましたが、少しお待ちいただいて、今回は、夏訪れたベルリンのドイツ方言をご紹介します。第12回「外国の方言みやげ」、第19回「韓国の方言事情」、第67回「リトアニアの方言区画」に次ぐ海外の方言情報です。
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“ICK BIN EEN BERLINA”(僕は、ベルリンっ子だよ)“DA KIKSTE WA, IS WAT?”(君、何見てんの?それ何?)と書かれています【写真1】。標準ドイツ語だと、“ICH BIN EIN BERLINER”“WAS GUCKST DU, IST WAS”となります。“ICH”(わたし)が“ICK”になるのは、ベルリン方言の特徴です。このシールを車や部屋などに貼って楽しむのだそうです。
“ALLET JUTE ALTER”【写真2】は、男性に送るカードで「おめでとう。おやじ(おまえ)」という意味です。“ALLET JUTE”は、標準語では“ALLES GUTE”です。“S”が“T”に、“G”が“J”に変化しています。「よい」にあたる“gutes”(標準語)が“jutet”(ベルリン方言)、「向かいに」という意味の“gegenüber”(標準語)が“jejenüba”(ベルリン方言)に変化するなどの例が見られます。“g”が“j”に変化する理由として、音声がやわらかく伝わる、口の奥を閉めなくても発音できるなどの理由があげられます。“ALTER”(old)は、男性が親しい友人に対して言うときの表現で、“mein Freund”(わたしの友)という意味ですが、冗談めかして“ALTER”などと呼びかけることがあるそうです。
【写真3】は、ベルリン方言の豆辞書で、ほかにヘッセン地方などを含む7つの地方の辞書があります。約5000語の標準ドイツ語の見出し語で、ベルリン方言が例といっしょに紹介されています。言葉の愛好家や休暇を地方で過ごす人のために発行されたそうです。
【写真4】は、Heinrich Zille(ハインリッヒ・ツィレ・芸術家1858-1929)による社会風刺の絵本です。1900年代のドイツ社会を描いた絵本ですが、ベルリン方言で書かれています。
【写真5】は、世界の英語方言という視点から見た資料です。ドイツ人が英語を話すと、“HAPPY BIRTHDAY TO YOU”は、“HÄPPY BÖRSDI TU JU”だと皮肉っているカードです。このように世界各地の英語方言をカードにしたらおもしろいでしょうね。同じアイディアが日本語方言でももっと採用されることを期待しています。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。