地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第80回 大橋敦夫さん:「北信濃方言に親しめるお店」

筆者:
2009年12月26日

そのお店は、「游学城下町」として売り出し中の長野市松代(まつしろ)町にあります。「おやき」(第40回)はもちろん、和菓子から洋菓子までを幅広く製造販売する蔦屋本店。

その最近のヒット作が「かりんとう饅頭 大名のおこびれ」です。カリカリとした皮に、しっとり餡が包まれ、まさに絶妙の食感です。

かりんとう饅頭
【かりんとう饅頭 大名のおこびれ】

「おこびれ」とは、おやつのことで、「こびり」とも言い、長野県内の他地域では、「こびる(小昼)」(木曽・伊那)「こびれ」(更埴・小県)と言ったりもします。漢字で、「小昼」と書くことができるように、語源のハッキリした語です。

「城下町にはおいしい和菓子(屋)がある」というセオリーをふまえ、お茶のおともにというねらいがネーミングに込められているようです。

このお店には、もう一つ、商品のほかに方言グッズがあります。それは、店員さんお手製の方言一覧(チラシ)です。

お手製の方言一覧
【お手製の方言一覧】
(クリックで全体を表示)

作成のねらいを伺ってみると、同じ長野県内から嫁いできたものの、日常会話の中に飛び交う方言に戸惑うこともしばしば。はてなと思う語を書き留めて、おもしろいと思われるものを一覧にし、お店で配ったところたいへん好評だったとのこと。帰省の際に、お店を訪れた松代町を離れた方にも、喜ばれたとの由。何度かのバージョンアップを重ね、今の版に至っているそうです。

地元・松代町を愛する社長さんのもと、地域の方はもとより、たくさんの観光客をおもてなしすることに努めているお店の力作2点でした。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。