地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第79回 山下暁美さん:『京ことば』で綴る写真展

筆者:
2009年12月19日

今回は10月に行われた「第39回京都写真家協会主催『京ことば』で綴る写真展」の会場を訪問したときの話をします(またまた予定を変更して申し訳ないのですが)。パンフレットに会長のあいさつが掲載されています。その中で、会長は、その土地の言葉を例えば、東京弁、九州弁、大阪弁、名古屋弁と呼びますが、当地、京都のことばは、「京都弁」とは呼ばず、「京ことば」と呼ぶ理由について述べています。それは、ともすれば、関西弁に飲みこまれようとする危機から「京ことば」を守る義務を感じるからにほかならないと。写真展では、その思いがじゅうぶん伝わる作品が紹介されていました。

方言は、字づらだけでは伝わらなかったり、ほかのことばでは、ぴったりした表現に言い換えができないことが多くてもどかしい思いをすることがあります。その表現を写真で見ると「ああ、そうだ。な~るほどネェ。」と簡単に理解できます。ここで紹介する写真は、出品した写真家の許可を得て、しろうとの筆者が会場で撮影し、編集したので、元の写真は、もっと美しくすばらしい写真です。

(画像はクリックで拡大します)

【写真1】
【写真1】「きしゃ、ごっついな~」

「きしゃ、ごっついな~」(汽車、大きいね【写真1】)と題された、機関車を見ている子どもの写真です。肩車をしてもらっているちいさな子どもの背中と「ごっつい」機関車が対照的です。驚いている子どもの顔が見えるようです。

【写真2】
【写真2】
「よろしゅう おたの申します」

「よろしゅう おたの申します」(よろしくお願いします【写真2】)は、京都の街角でよく見受ける光景です。挨拶をする場面での人と人との距離の保ち方、視線、腰の折り方までちゃんと見る人に伝わります。人に頼みごとをするときは、「こうでなくっちゃ!」という手本が示されています。

【写真3】
【写真3】「さぶがりやな~」

てぬぐいをかぶった年配の婦人が路地ですぐき漬けを売っています。若い女性に「さぶがりやな~」(寒がりだね)と言っています【写真3】。ジャケットを着た若い女性は、寒そうに肩を丸くして手を前に組んでいます。すぐき漬けというのは、千枚漬けと同じく、京都を代表する漬け物で、冬が旬で初物が売られる頃は、とても寒いのです。

【写真4】
【写真4】「はんなり」

最後は、「はんなり」【写真4】です。写真で表現された「はんなり」です。「はんなり」は、「明るく、華やかなさま」を言います。暗闇で舞うほたるが非常にきれいに写しだされています。水面にうつる月の光も華やかさをそえています。第29回「“ほっこり”なべに“はんなり”豆腐でまったりする」でも紹介しましたので、参考にしてください。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。