三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺
オウィディウスで ラテン語を読む
- 定価
- 3,300円
(本体 3,000円+税10%) - 判型
- A5判
- ページ数
- 256ページ
- ISBN
- 978-4-385-36594-7
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改訂履歴
- 2013年10月15日
- 発行
ラテン語を楽しく味読するために、工夫をこらした最新の撰文集。
ラテン語力が飛躍する! 楽しく読みこなすための工夫をこらしたラテン撰文集[リーダー]。
案内人は、古代ローマの人気詩人オウィディウス。
恋の手管を教導するエロティックな詩、流刑地から妻や友に送った書簡詩を読む。
特長
さらに詳しい内容をご紹介
はじめに
これから読者とともに読みすすめていく作品は、古代ローマの詩人オウィディウス(Pūblius Ovidius Nāsō)の 3つの詩集「悲しみの歌 Tristia」「黒海からの便り Ex Pontō」「恋の歌 Amōrēs」から、現代人にとってもおもしろく読める以下の部分を抜粋したものである。
- Tristia から 3編:第1巻 第3編(ローマとの別れ)、第4巻から第8編(老年)、第10編(自伝)
- Ex Pontō から 2編:第1巻 第4編(妻へ)、第3巻 第7編(友人たちに)
- Amōrēs から 7編:第1巻から第2編(アモルの凱旋)、第5編(昼下がりの恋)、第2巻から第9A編(恋を終えて)、第9B編(再び恋を)、第15編(指輪)、第3巻から第8編(富の横暴)、第9編(ティブルスの死)
なお、ラテン語読本としての性格上、本書は初級のラテン語文法を解説した本(既刊の拙著『ラテン語・その形と心』など)をひととおり読み終えた読者を前提としていることをお断りしておく。
本書の構成を簡単に説明しておこう。まずはじめに、詩のテキスト(偶数ページ上段)とその日本語訳(偶数ページ下段)をおいた。つぎに、原詩の語順を変えて文法的につながりのあるフレーズにまとめ、さらに「長い」母音にしるしをつけたテキスト(奇数ページ上段)をおき、最後に原詩の理解に必要と思われるフレーズ(と語)の意味を解説した注(奇数ページ下段)を添えた。つまり、見開きの2 ページが原詩読解のためのひとつのまとまりを構成しているわけである。なお、偶数ページ下段においた日本語訳は、読者が原詩との対応を読み取りやすいように、(文学作品、それも詩の訳文としてではなく)より直訳に近いかたちに訳してあることをお断りしておく。また、テキスト中の個々の単語の意味は、巻末に付載した「語彙集」で検索できるようにしてあるので活用していただきたい(特殊な意味で使われている単語についてのみ、奇数ページ下段の注の欄に記した場合がある)。なお、テキスト中のギリシア語やラテン語の人名などの固有名詞のカタカナ表記については、おおむね慣用にしたがった。それは、Platōn プラトーンよりもプラトンのほうが、Homērus ホメールスよりもホメルス(ホメロス)のほうが筆者にとって親しみやすいという単純な理由による。
この奇数ページ上段においたテキストについて一言しておこう。詩(韻文)は、散文の場合と違って韻律上の強い制約があるために、文法的に結びついている語どうしであっても、離ればなれの位置におかれていることが少なくない。このテキストは、読者の読解をたすけるために、すべての「長い」母音にしるしをつけてその詩行の韻律を読みとる手がかりを示し、さらに文法的に結びついた語を1 つのフレーズにまとめて、意味をとりやすいかたちに再構成して提示したものである。原詩の正確な理解、味読のためには、この韻律を理解することが必要になってくるのだが、ふだん韻律に慣れていない日本の読者にはなかなかむずかしいところがある。そこで、Tristia からの3 編については、全詩行にわたってその韻律を示しておいたので、これを参考にして韻律に慣れていただきたい。
上にのべた母音の長短の問題は音節の構成とも深いつながりがあり、それがまた詩の1 行の韻律をつくるたいせつな要素となっている。その韻律(詩型)と音節については、巻末の付説(2)「韻律について」にやや詳しい解説を加えたので、それをお読みいただきたい。また、本文「悲しみの歌」のテキストの直後に挿入しておいた上述の「韻律見本」も参照していただきたい。付説としては他に、「詩人オウィディウス」「古代ローマ人の姓名」「古代ローマの神々」についての読物ふうの簡単な解説を加えた。
あとがき
本書は、ラテン語をその詩を通して学ぼうとする人のための撰文集である。だいぶ以前のことになるが、編集部の松田徹さんと雑談をしていたとき、当時評判になっていた岩波文庫版のオウィディウスの『恋愛指南』のことが話題になった。そのとき松田さんが、できればこうした詩を題材にしたラテン語の学習用読本を出版したいといわれた。
そのためには題材はともかく、まずは語句の理解が必要である。そして、そのためには、韻律にしたがってはめこまれた2 行単位の詩をほぐして、そこに含まれている関連する語句のつながりをとらえなければならない。こうした過程をくり返しながら、ラテン語の詩に読者が気安く接することができるようになるのによい手だてはないかということだった。もう1 つは、これは松田さんももらしていたことだが、韻律への不安感のようなものである。これらの難問をいささかなりとも解決して、読者がラテン詩を楽しむ手がかりになるように工夫した結果が本書である。ここに収められたのは、この詩人の数多い作品のうちのごくわずかにすぎないが、読者がラテン語学習の次の段階に進むための学習の糧になれば幸いである。
終わりに、今回もまた編集・組版の両面で、松田徹、白川俊のおふたりに非常にお世話になった。厚くお礼申し上げたい。
2013年7月
風間 喜代三
著者紹介
風間 喜代三(かざま・きよぞう)
1928 年、東京生まれ。東京大学文学部言語学科卒業。
東京大学教授、法政大学教授を歴任。東京大学名誉教授。
専攻:言語学・インドヨーロッパ比較言語学。
著書:本書の姉妹編『ラテン語・その形と心』(三省堂)、『ラテン語とギリシア語』(三省堂)のほか、『サンスクリット語・その形と心』(共著、三省堂)、『言語学の誕生』(岩波新書)、『印欧語の故郷を探る』(岩波新書)、『印欧語親族名称の研究』(岩波書店)など多数。
目次
はじめに iii
[地図]オウィディウスの時代の古代ローマ世界 ix
(ローマからトミスへ)
ラテン語テキスト 1
「悲しみの歌」Tristia 2
(1) I, 3 ローマとの別れ 2
(2) IV, 8 老年 24
(3) IV, 10 自伝 34
韻律見本(「悲しみの歌」) 62
「黒海からの便り」Ex Pontō 84
(4) I, 4 妻へ 84
(5) III, 7 友人たちに 96
「恋の歌」Amōrēs 104
(6) I, 2 アモルの凱旋 104
(7) I, 5 昼下がりの恋 114
(8) II, 9-A 恋を終えて 120
(9) II, 9-B 再び恋を 126
(10) II, 15 指輪 132
(11) III, 8 富の横暴 138
(12) III, 9 ティブルスの死 152
付説169
(1) 詩人オウィディウス 171
(2) 韻律について 179
(3) 古代ローマ人の姓名 187
(4) 古代ローマの神々 193