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「コンサイス日本人名事典」について

監修のことば

 われわれがさまざまな形で必要とする過去についての知識のうち,人物についてのそれは,もっとも身近で,それだけに必要度も高い。それにもかかわらず,戦後30年のあいだに,手ごろでしかも信頼しうる日本人物辞典はほとんどつくられなかった。戦後めざましく発展した日本歴史研究の成果を十分にふまえた人物辞典がほしいということは,誰でも考えるところであるが,広い目配りとバランスのとれた項目の選定,適切な筆者の協力,内容上の厳密な事実の確定など,どの問題をとっても,その困難は想像を絶して大きいのである。

 私達がその困難を承知のうえで,今日のひろい要求にこたえることをめざして日本人物辞典の作成にふみ切ったのは,すでに8年も前のことである。それ以来,作られるべき辞典の基本的性格,項目選定の方針,各項目の記述の基準などについての徹底的検討,執筆依頼,原稿整理,いくたびもの校正,といった,限りない忍耐を要求される作業過程を経て,ここにようやく完成間近までこぎつけることができた。この間にお願いした各筆者と編集部の協力は筆舌につくしがたいものがある。かえりみてまことに感慨なきをえないが,以下,本辞典の性格・特徴などを簡単に記しておこう。

1.基本的性格

 この辞典は,一般社会人・教師・学生・家庭人など,広範な読者が日常座右に置いて,人物についての簡潔・適切な知識を得られるためのものとして編纂した。

2.項目選択の基準

a.選択範囲はもとより全時代にわたるが,とくに近・現代に重点をおき,現存人物も最少限必要と思われるものは採録した。そうした結果,従来の歴史辞典・人物辞典・百科事典などでは採録されていない人物も広くとりあげられ,また近・現代の人物で全体の約50%に達した。

b.分野的には,政治・経済・社会などとともに,学問・宗教・文学・芸能・スポーツなどの諸分野にひろく目をくばるとともに,いわゆる中央直結的な人物ばかりでなく,地方的・民衆的な人物もできるだけ多くとりあげることにつとめた。とくに従来の類書では等閑に付せられがちであった,沖縄・アイヌ関係の人物などもつとめて採録した。

c.神話・伝説上の人物も読者の便宜を考慮して排除せず,また外国人も,日本歴史と直接深いかかわりをもつ場合は採録し,開港以前関係は本文中に,それ以降は付録にまとめて収録した。 以上によって選定した項目は合計約13,000余である。

3.記述の方式

a.各項目の記述方式としては,基本規定,系譜,出生地,号・筆名などの各種の名前,出身校など,人物辞典として必要な基礎的諸事実をまず明示したうえで,内容記述に進むという形式を全項目にわたって採用し,利用の便を図った。

b.本文の記述にあたっては,当該人物の社会的環境,その時代の歴史動向との関連なども考慮しつつ,できるだけ編年形式をとってその人物の業績が明確にわかるようにつとめた。

c.その項目の人物に著書のある場合,また,その人物に関する主要な研究書・論文などがある場合は,その刊行年もつけて,それを示した。

4.付 録

 古代における官制の変遷が理解できる7世紀後半の官職表を付し,また中世の場合,個人としてよりは姓氏として歴史的に重要な意味をもつものも少なくない点を考慮し,解説と略系図をつけた。さらに近代日本の発展に関与した外国人200余名に解説を加えた。

5.索 引

 収録項目の総索引を付し,難解な読み方の人名の検索をはじめ,種々の活用の便宜を図った。

 以上の方針によって,本辞典は従来の類書とはかなり異なる特徴をそなえることができ,読者は,能率的また多角的にこれを利用できるのではないかと考えている。大方の御叱正をいただければ幸いである。

 なお最後に,本辞典の企画のとき以来,終始ねばり強い献身的な努力を重ねてこられた欄木寿男氏をはじめ編集部の方々に感謝する。

1976年 1月

上田正昭
津田秀夫
永原慶二
藤井松一
藤原彰
(50音順)