2017年の選評
6.「卍」ってどういう意味?
このほか、最後まで議論の対象になりながら、惜しくも選外になったことばについて触れておきます。 「卍」は、中高生の若者、特に女子がさかんに使っているようです。この状況はツイッターを見れば一目瞭然です。〈これからバイトとかマジ卍〉〈嬉しすぎて卍〉〈行きたすぎる卍〉……などと「卍」が乱舞しています。
「『卍』の意味が分からない」という声も多く、正直なところ、選考委員もぴんと来ません。「卍な彼氏」は「ヤンキーな彼氏」であるなど、いろいろに使われるようです。ただ、「マジ卍」という連続が多いことから、「マンジ」はもともと「マジ」の強調形で、そこからいろいろな意味が分化したとも考えられます。
だとすると、〈これからバイトとかマジ卍〉は「これからバイトに行くのは、本当に、本当に(嫌だ)」ということと解釈できます。〈行きたすぎる卍〉は、「マジで行きたい」ということでしょう。後者の「卍」は、あるいは、発音せずに、特に意味のない記号として使っているのかもしれません。
なかなか興味深い表現であり、使用実態をもっと研究してみたい気はします。ただ、意味・用法が固まりきっていない現状では、辞書には載せられません。というわけで、選外になりました。
「プレミアムフライデー」(プレ金)は、月末の金曜日に早めに仕事を終えようというキャンペーンで、国や経済界が呼びかけ、今年2月から実施されました。スマイルマークふうのロゴもできましたが、プレ金を実施する会社は多くないようで、「実質を伴わないことば」になるおそれが濃くなりました。残念ながら選外です。
ただ、これから先、月末金曜の夜に残業中の人たちが、「そう言えば、今日はプレミアムフライデーだね」と自嘲的に使い続ける可能性もあります。冗談で長く使われることばになるかもしれません。
「熱盛」は、テレビ朝日系「報道ステーション」で、プロ野球の「熱く盛り上がっているシーン」を紹介する時に使います。ミスにより、「熱盛」の字幕が関係ないところで表示されたことから話題になりました。投稿も一定数ありましたが、現在のところ、まだ流行語という色合いが強く、ランクインさせるのはためらわれます。
余談ながら、うどんやそばの「熱盛り」は国語辞典に載っています。熱い麺を器に盛って出すもので、選考委員のひとりは「うどんの大天盛り熱盛り」(天ぷらを添えた大盛りの熱盛りのうどん)が好物です。この意味を①とし、「熱く盛り上がっていること」を②の意味として、辞書に載せる日が来るかもしれません。
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今回の選考は、「忖度」以外は難航したと述べました。苦労はしましたが、結果を見ると、SNSのことばが目立つなど、おのずからいまの時代を映すものになりました。これからの日本語で活躍するかもしれない顔ぶれを楽しんでいただければ、うれしく思います。来年もぜひ、多くのご投稿をお願いいたします。