2017年の選評
5. そろそろ辞書にほしい「きゅんきゅん」
7位の「仮想通貨」。インターネット上で取引される通貨で、スマートフォンを使って入手できます。「ビットコイン」などがその代表で、数年前には「投機的な取引が過熱している」とニュースになりました。怪しいお金かと思っていたら、昨年の法律改正で商品券などと同様のものと見なされ、今年7月から消費税がかからなくなりました。将来主流になるかもしれないマネーの呼び名として、ランキングに入れておきます。
7位 仮想通貨
『新明解国語辞典』風
かそう つうか 4【仮想通貨】インターネットなどを通して送金や決済ができ、現実の通貨とも交換のできる通貨。ネットワーク上のコンピューターが相互に取引をチェックすることで信頼性を保証する仕組みを持つ。
仮想通貨ではありませんが、中国などでスマートフォンによる決済が普及し、現金を持ち歩かない人が増えたことも報道されています。仮想通貨や電子決済が普及すると、何世紀にもわたって貨幣の意味で使われてきた「お金」ということばの意味も、これまでと違うものになるのではないかと予想されます。
8位の「オフショル」。昨年あたりから、夏になるとよく目にするようになりました。肩の部分をあらわにした女性のファッションです。「オフショルダー」を省略したことばです。
8位 オフショル
『三省堂国語辞典』風
オフ ショル〔←off-the-shoulder〕(名)〘服〙えりぐりが広くて、肩(カタ)まで出るようになっている、女性の服。オフ ショルダー。〔イブニングドレスなどで よくある。二〇一六年ごろから ふだん着としても流行〕
「オフショルダー」自体は、昔から夜会服などに見られました。ただ、それは日常の服装ではありませんでした。最近になって、これが女性の普段着に取り入れられ、名称も「オフショル」と略されるようになりました。 「パワーワード」の略称「パワワ」のところで触れたように、略称の存在はそのことばの定着度を判断する材料になります。「オフショル」は一時の流行に終わらないと見て、ランクインさせました。
9位の「イキる」。関西などの方言で「調子に乗る、かっこつける」の意味で使われてきたことばです。選考委員会の席上でも、出席者が「出身地の京都でも言う」「『お前、何イキっとんや』と香川県でも言う」などと、当事者として証言しました。
9位 イキる
『三省堂現代新国語辞典』風
いき・る〖意気る〗〈自動五段〉調子に乗ってやたらに大きな態度を取る。「あいつ、イキりまくりで見てられないよ・そうイキんなや」[もと関西辺の言い方。「イキ」の部分だけカタカナ表記されることが普通。「イキり」のように名詞形で用いられることも多い]
これだけなら「今年の新語」にはなりませんが、今年になって、ネットで「イキりオタク」(かっこつけてるオタク)のように、「イキる」が全国区のことばとして広まりました。関西方言の「えげつない」「ど真ん中」など、方言が全国で使われるようになる例は、過去にも無数にあります。「イキる」もそのひとつとなりました。
10位の「きゅんきゅん」。胸をときめかせる様子を表す擬態語(オノマトペ)です。ファッション雑誌でも〈乙女なリボンにきゅんきゅん〉などと使われています。新語という感じは薄いかもしれません。でも、現在のところ、オノマトペ辞典を含め、主要辞書では「きゅんきゅん」は項目に立っていないのです。
10位 きゅんきゅん
『新明解国語辞典』風
きゅん きゅん 1(副)―と/―する 接するたびに息苦しさや言い知れぬ悩ましさを感じ、異常な興奮状態に陥る様子。 「あの連続ドラマの主題歌が流れるたびに胸が―して、我を失うような状態に陥る」
もともと、「きゅん」は「胸がきゅんと痛む」のように、寂しさ、懐かしさなどで胸が締めつけられる感じを言いました。やがて、イエロー・マジック・オーケストラの曲「君に胸キュン」(1983年)に見られるように、恋愛感情による動悸などを表現するようになりました。現在、「きゅん」「きゅんきゅん」は、好きな人や可愛い動物などに対するときめきを表す場合に使われます。そろそろ、国語辞典にも説明がほしいところです。