5. 競技会でなくても「優勝」できる?
6位 優勝
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
ゆう しょう[優勝](名・自サ)①〔試合・競技で〕第一位で勝つこと。決勝戦で勝つこと。「━杯(ハイ)・━カップ・新記録で━した」②〔俗〕大満足(な体験を)すること。最高なこと。「おでんと酒で━」〔二〇一〇年代に広まった用法〕
6位の「優勝」も、ネットを中心に新しい用法が広まったことばです。競技会などでの優勝のことではありません。たとえば、上等の料理を食べたときなどに、「大満足」という意味で「優勝」と表現するのです。
ネットでの「優勝」の用法には変遷があります。21世紀になって、掲示板では「一番どうでもいいこと書いた奴が優勝」などとお題を出して、大喜利が行われていました。べつに優勝者が決まるわけではありません。
2010年代には、「アヒージョと白ワインで優勝」など、「大満足」の例が多くなりました。そこから派生して、2017年頃には「優勝」を「性的関係を結んで満足すること」の意味で使う人も現れました。その後は、「温泉入って優勝したい」「ポン酢で食べたら優勝でした」など、「大満足」「最高」の意味で使われています。
こうした「優勝」の用法は、俗っぽい感じが強いものの、すでに定着しています。競技会で実際に優勝するのは難しいことですが、贅沢な食事で同じ高揚感を味わえるのなら、悪くないことです。
7位 ごりごり
『新明解国語辞典』編集部
ごりごり[一]1(副)━と ━する (一)堅いものなどを(音を立てて)こする様子。また、その音の形容。「肩が凝って━する/━と石臼で豆をひく/━と腕をかく」(二)堅いものなどさわると手にでっぱりが感じられる様子。[二]0 ━な ━に 考え方などがあることだけにこりかたまっている様子だ。〔俗に「筋金入りの」「タフでエネルギッシュな」などの意で、肯定的に用いられることもある〕「━の現実主義者/━の理系/━のイケてる低音」
7位の「ごりごり」も、やはり用法の変化に着目して選んだことばです。一般には「ごりごりと石臼で豆をひく」のほか、「ごりごりの現実主義者」のように、〈考え方などがあることだけにこりかたまっている様子だ〉(『新明解国語辞典 第八版』)という意味で使われます。批判を含んだ言い方です。ところが、これがさらに変化して、「ごりごりの関西弁」「ごりごりの恋愛ドラマ」のように「徹底した」「根っからの」という意味で使われるようになりました。ここには批判の意味合いはありません。
2020年2月に「ごりごり」を取り上げた新聞記事があります。選考委員のひとりは取材に対し、本来「強、重、暗」のようなニュアンスのあった「ごりごり」が、現在ではポジティブなニュアンスを出すために使われているのが注目点だ、という趣旨のことを答えました。
8位 まである
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
まで−ある 〈連語〉①[自分の基準からみて]予想以上のものが存在する。「紅茶どころか、ケーキ━」②[動詞句・形容詞句に接続して]ある予想や基準をこえたことをおこなう。また、そのような状態である。「その絵が好きすぎて、日に五回見に行った━」 《用法》従来は、①のように、名詞に接続する用法だけであった。②は、公的な場面や文章では避けたほうがよい。
8位の「まである」。聞いたことがない人はピンと来ないかもしれません。「まである」は普通、「首まであるセーター」「この部屋にはカラオケセットまである」のように、名詞につけて使います。ところが、10年以上前から、「まである」を動詞句や形容詞句につける用法がじわじわと広がってきました。「このシーンが好きすぎてDVD買ったまである」「楽しみすぎて眠れないまである」など、特にネット上で使われます。
「DVD買ったまである」とは「DVDまで買った」という意味、「楽しみすぎて眠れないまである」とは「楽しみすぎて眠れないほどだ」という意味です。「まで」には普通の範囲を超える意味合いがあり、単に「眠れないほどだ」と言うよりも、「眠れないまである」と言ったほうが、程度が極端な感じをより強く表現できます。
「まである」は、「飲んじゃうまである」「読むしかないまである」など、いろいろなフレーズにつけられるのも便利です。程度の極端さを手軽に表現できるところが好まれて、広く受け入れられたのでしょう。