「今年の新語 2023」の選評

4. 「かわちい」は感情を主観的に表す

3位 かわちい

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

かわち・いかは
ちい
⦅形⦆〔俗〕かわいい。「━デザイン・こんな自分が━」〔二〇二〇年代初めに特に広まった ことば〕

 3位の「かわちい」は、「かわいい」をちょっとふざけて言ったことばです。「○○のイラスト、かわちいなあ」「かわちいコーデ」「自分がかわちい」などと使います。ティックトックが発祥とも言われます。

 「かわちい」の増加の様子は、たとえばツイッター(X)に1日に出現する回数の変化を調べると分かります。例そのものは10年以上前からありますが、増えてきたのは2010年代後半からです。2020年代にはさらに増え、2023年に特に急激に増えました。11月現在では1日に約4,000回程度つぶやかれています。

 「かわいい」の「いい」が「ちい」になる理由は、「ちい」が子どもっぽくてかわいらしいから、とも言えます。ただ、それだけでは説明として不十分です。「ばっちい」や「みみっちい」はかわいらしくないからです。

 子どもが使う「うれちい」「おいちい」などの「ちい」は、「しい」が変化したものです。「しい」がつく形容詞には、「楽しい」「恐ろしい」など、感情を主観的に表すことばが多く含まれます。

 そう考えると、「うれちい」「おいちい」などと同じ語尾を使うことで、「かわちい」は「心からかわいいなあと思う」と、感情を強めた表現にしていると考えられます。

 「かわいい」は若い世代の基本語のひとつですが、そこに小さな、しかし確実な変化が訪れているところに注目し、3位に選びました。硬派なことばが並ぶランキングの中で、「かわちい」は清涼剤になっています。

4位 性加害・性被害

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

せい かがい[性加害]性暴力など、性的な害をあたえること。「━をおこなう・━を受ける」(↔性被害ひが

せい ひがい[性被害]性暴力など、性的な害を受けること。「━に遭
  
う・━を受ける」(↔性加害)

 4位の「性加害・性被害」は非人間的な行為に関係することばですが、重要な概念と考えて選びました。

 2023年には大手芸能プロダクションの創業者の性加害行為が大きく報道されるなど、性加害・性被害の問題に注目が集まりました。ただし、単に注目された用語だからランクインさせたわけではありません。「性加害」も「性被害」も、以前から広く使われてきた印象がありますが、実はここ数年急速に一般化したことばです。特に「性加害」はこれまで例が多くありませんでした。主要な国語辞典にはどちらも載っていません。

 従来、「セクハラ」「痴漢」「性暴力」(またはその被害)などの表現は一般的でしたが、それらすべてを含む表現が私たちの身近には用意されていませんでした。ところが、「性加害・性被害」ということばが一般化したことにより、性に関する多様な加害・被害をカバーした議論ができるようになりました。

 これはちょうど、1980年代末に「セクハラ」(セクシュアルハラスメント)ということばが一般化した状況に似ています。「セクハラ」ということばによって、性的な発言や身体接触など、性や性別に関する嫌がらせを広く議論の対象にすることができるようになりました。

 「性加害・性被害」ということば自体には、際立った特徴はありません。言わば地味なことばですが、性に関する人権侵害を議論するために不可欠な語句として、今の時代に迎えられたのです。

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