「今年の新語 2023」の選評

5. 体裁を取り繕う「○○ウォッシュ」

5位 ○○ウォッシュ

『新明解国語辞典』編集部

ウォッシュ (造語)〔wash〕 世間に知られては都合が悪いことや不正を糊塗し覆い隠す意図をもって、自らの善行を吹聴し、言い立てること。ウォッシングとも。「グリーン━‬5〔= 環境や健康に対して実際には効果がないにもかかわらず、いかにも環境に配慮し、効果があるかのように見せかけること〕・ホワイト━‬5〔= 汚れを覆い隠すために表面を白く塗りつぶすことから、うわべをつくろい、ごまかすこと〕」

 5位の「○○ウォッシュ」は、企業などが批判をかわすために体裁を取り繕う活動を指します。もともと、「しっくい(で白く塗る)」という意味の「whitewash」という英語があり、「ごまかし」「体裁を繕う」の意味が派生しました。さらに「wash」を用いて、実体の伴わない見せかけの活動を指すようになりました。

 英語では1980年代末に「greenwash」が現れました。環境にダメージさえ与えていながら、環境保全に積極的であるかのように見せる活動です。21世紀には日本語でも「グリーンウォッシュ」が広まり、特に2020年代によく目にするようになりました。他にも、国連活動に参加してイメージを取り繕う「ブルーウォッシュ」(国連のシンボルカラーにちなむ)、LGBTに寛容であるかのように見せる「ピンクウォッシュ」(同性愛者のシンボルカラーにちなむ)、SDGsの達成に積極的なように見せる「SDGsウォッシュ」などが指摘されます。見せかけだけの活動に厳しい目が向けられる現代、「○○ウォッシュ」という造語法は増えると予想されます。

6位 アクスタ

『大辞林』編集部

アクスタ0〔アクリル-スタンドの略〕アクリル樹脂製の板に、アニメ・ゲーム・漫画等のキャラクターや人物写真などを印刷したもの。台座に立てて鑑賞したり、写真を撮ったりして楽しむ。

 6位の「アクスタ」は「アクリルスタンド」の略語です。アニメやアイドルなどのショップで、人物などの写真や絵を印刷した、透明なアクリル板のグッズを見かけるようになりました。土台にはめこんで立たせることができます。ごく簡単な作りのグッズですが、広まったのは意外に最近です。グーグルでの検索頻度をウェブサイト「グーグルトレンド」で調べると、「アクスタ」は2010年代後半から検索数が増えています。2022年9月には男性アイドルたちの「アクスタストア」がオンライン限定でオープンし、ファンによるアクスタの争奪戦を指す「アクスタ戦争」ということばがSNSで飛び交いました。

 2020年代に入り、「推し活」(ファンとして応援する活動)ということばがすっかり定着しました。アクスタを戸外の風景とともに写真に撮り、SNSに投稿することも盛んになりましたが、これも「推し活」の一環でしょう。「推し活」の裾野が広がったことが、比較的安価で買えるアクスタの普及に貢献しているのかもしれません。

7位 トーンポリシング

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

トーンポリシング〈名〉[←tone policing]議論の中身ではなく、その口調や態度などを問題として指摘し、話を本題からそらすこと。「悪賢い━‬にひっかかる」《由来》toneは「口調、音調」、policingは「警察による警備や規制」の意。

 7位の「トーンポリシング」は、相手の主張に対し、その中身を問題にしないで、話し方や態度などを批判して論点を逸らすことを言います。「ポリシング」は磨くこと(polishing)ではなく、警察のように取り締まること(policing)です。つまり、「発言のトーンの取り締まり」ということです。

 責任を問われた企業の代表が、記者会見の場で、強く迫る質問者たちに対して「落ち着いてお願いします」と述べたことがトーンポリシングではないかと指摘されました。SNSの議論でも、トーンポリシングによる論点のすり替えについて、批判する意見を見ることが少なくありません。

 議論や話し合いは穏やかに行うのが基本です。とはいえ、問題の当事者が必死に訴えるあまり、トーンが強くなることもあります。そのことを論点逸らしに利用してはならないと、私たちは自戒すべきでしょう。

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