『オタク用語辞典 大限界』に関するご報告とお願い(編者・版元より)

『オタク用語辞典 大限界』に関するご報告とお願い(編者・版元より)

編者より

私たちの作成した『オタク用語辞典 大限界』について、たくさんのご意見をいただいています。三省堂から出版される書籍ということで、幅広い語と、客観的で正確な語釈が掲載されたオタク用語の決定版のような辞書を期待された方が多くいらっしゃったことと思います。しかしweb上で公開された見本ページの内容が、そのようなご期待とは異なるものであったため、多くの厳しいご意見を頂戴しました。

この書籍は、ゼミ担当教員である私が、学生の話している独特な日本語に興味を持ったところから始まっています。オタク仲間にならない限り、触れることのできないような日本語がたくさんあることを知り、彼女たちの使う言葉をできる限り集め、保存するべきだと考えました。また、それを、使用者である学生たち自身が解説することで、自分の使用する言葉に興味を持ち、それを観察する態度を身につけることに繋がると考え、ゼミ活動として編集制作を行いました。

大学生になり、言葉を観察し解説するという経験を初めてした学生が、試行錯誤しながら作り上げた書籍です。自分たちの大好きな作品や推しを語る言葉を、熱意をもって集め、説明を施しました。語釈には未熟で独りよがりに感じられるところもあるかと思います。しかし、それは、著者たちがその用語を使用するときに感じる情熱や興奮を、読者の皆様に伝えようと、ノリやニュアンスも大切にして執筆したからでもあります。どの語釈も、確かに使用者の実感を通して、その言葉の一面を捉えたものです。本書は、使用者自身が自らの言葉を解説することに特徴があり、彼女たちの視点から見た、日本語の一面を記述したものであるという点をご理解いただければと思います。

語釈の不備や用例の不適切さについてのご指摘も拝見しております。大変ありがたく、真摯に受け止め、可能な限り改善させていただきました。オタク文化は重層的で、色々な界隈に分かれており、同じ語句でもジャンルが異なれば意味するところが変わるなど、多様性にあふれています。その豊穣さについて、たった一冊の本で解説することがいかに手強い課題であるかは、想像に難くありません。だからこそ『大限界』では、学生たち一人一人が自らの感性を活かし、見て取った、“現在の”言葉のありようを記録しました。これをよりよいものにしていくためには、さらにたくさんの生きた用例を収集し、語義を考え直す作業が不可欠です。

今回の書籍の出版は、ゼミ活動の成果の発表であり、この後は、読者の皆様にご批評いただきながら、育てていただくものと思っております。用語の使用者である皆様のご意見、ご感想は、大変貴重なものとして受け止めております。また、本書の項目例や見本ページの索引例に掲載した用語についても、さまざまなご意見を拝見しております。ぜひ本書中の語釈をご覧になった上で、改めてお考えをお聞かせいただけますとありがたく思います。

最後に、関係ゼミ生の個人SNSアカウント等に、中傷のようなコメントを直接書き込むことは、どうかお止めください。できるだけたくさんの方に、本書と、それにかけた熱意を知ってもらいたいという純粋な想いから、今回の出版に協力する形で作成してくれたアカウントです。一般に向けて書籍を出版する以上、ご批判は真摯に受け止めるべきということは重々承知しておりますが、まだそのような訓練を十分に受けていない若者です。どうかご理解いただきますよう、よろしくお願いいたします。

 

『オタク用語辞典 大限界』編者 小出祥子

 

版元より

刊行に先立ち、事前に公開いたしました本書の内容につき、多くのご意見・お問い合わせをいただきました。中には、版元としての小社三省堂の出版意図へのおたずねもありました。

通例、国語辞典では、書籍・雑誌・新聞・ウェブメディア・テレビ・ラジオなど種々の媒体で、人々が日々目にし、耳にする言葉を採録、精査して掲載することから、その時代の言葉の記録という性格があります。しかしながら、紙幅の制限や、息長く残る言葉、一般に多くの方が公の場面で出会う語を優先するなどの制約から、日本語のすみずみまで、その総体を映し出し切れてはいないという面もあります。あるサークルでやりとりされる言葉、ごく短期間で消え去る言葉など、通常の国語辞典に載らない言葉も、しかし、ある時代の日本語の一員であることは確かなことだと思います。

ところが、これらを捉えて記録し、ご紹介するには、国語辞典の編集のように広く客観的な観点で編集制作するという方法論とは相容れないところがあります。三省堂では、国語辞典のように広く公の言葉を掲載する辞典を多く刊行しております一方、そこに載らない言葉を採集し、記録する『当て字・当て読み 漢字表現辞典』『異名・ニックネーム辞典』などの書籍も出してまいりました。常に生成消滅し揺れ動く言葉を捉え、記録するためには、そのありようを最前線で観察する個人の視点と、その営為によらざるをえないところもあります。

オタク文化は今や大きな広がりをもつに至り、重層的で多様で、またダイナミックに動き続けているものと思われます。その全容を同時代的に捉えきることは不可能にも思えますが、小出ゼミの編集制作となる本書は、この文化を生きる学生各自の興味・関心から捉えられた、一種の時代的・文化的記録であり証言であろうと思います。

小出先生が上述されたように、不備な点もあるということも含めて、この時代のオタク用語のある面からの記録であり今後の成長が期待されるものとして、本書の刊行には意義があることとして、刊行を決意いたしました。

見本ページをご覧いただいた方から、種々ご批判をいただいておりますが、本書には特定の方々をおとしめたり侮辱したりするような意図はまったくありません。ただそう解される余地のありうるところは、刊行までの間にできるだけ改善するようにいたしました。

とは言え、まだ見落としや、十分に捉えきれていないところもあるかと思います。お気づきのことは、ぜひ下記の問い合わせフォームを通じてご意見をいただければと存じます。すぐに対応することは難しくとも、今後改訂等の機会を通じて検討を重ねてまいりたいと思います。

 

 以上、なにとぞご理解賜りたくお願い申し上げます。

 

三省堂 辞書出版部

山本康一