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第78回【常在戦場】じょうざいせんじょう

筆者:
2026年2月23日

[意味]

〔「常に戦場に在り」の意〕いつも戦場にいる気持ちで事に当たれ、という(武士の)心得の言葉。(大辞林第四版から)

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第51回衆議院選挙が2月8日投開票で実施されました。衆院議員の任期は4年あるわけですが、前回からわずか1年3カ月しかたっていないなかで、突如決まった総選挙。新聞報道などで、議員が発した「常在戦場」を見聞きしました。

新明解四字熟語辞典によれば、「いつも戦場にいるつもりで、気を引きしめて事に当たれという心得を説いた言葉」で、出典は『呉志』の朱然伝。旧長岡藩が藩訓としていたことでも知られています。参議院とは異なり、4年の任期があっても解散によって総選挙となる衆院は、次の選挙がいつ行われるか分かりません。衆院議員はいつ選挙になってもいいように、常に戦場にいるという心構えで身を処すことが重要だと説いたものです。

実際、衆院の任期満了は戦後約80年間のうちでわずか1回のみ。これは1976年の三木武夫内閣の時で、それ以外は任期を全うすることなく、解散・総選挙が行われています。「常在戦場」なのは分かりますが、きちんと議員活動ができているのか疑問の声も上がってきそうです。

新聞記事データベース「日経テレコン」で、2000~2025年の日本経済新聞朝夕刊に「常在戦場」が現れた記事を検索してみると、選挙が行われた年やその前年で件数が多くなることがありました。17件で最多の2016年は衆院選がありませんでしたが、7月の参院選との「同日選」が取り沙汰されるなど、解散に身構える議員たちの動きが影響したようです。全160記事中約8割に当たる127件が政治・選挙がらみのものでした。

ちなみに政治・選挙以外では、企業など組織トップの座右の銘や心構えが見られます。ほかに目をひいたのは、野球殿堂入りした元中日ドラゴンズ投手の岩瀬仁紀氏を取り上げた2025年1月28日付夕刊の記事。試合展開によって、いつ出番が来るか分からない救援投手は、毎試合がまさに「常在戦場」だったことでしょう。

※赤丸は衆議院選挙が行われた年。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える! 用字用語辞典 第2版』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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