世界音声記号辞典

品切れ
定価
2,310円
(本体 2,100円+税10%)
判型
A5判
ページ数
384ページ
ISBN
4-385-10756-4

音声記号のすべてがわかる言語学の基本図書。

ジェフリー・K・プラム、ウィリアム・A・ラデュサー 著/土田滋、福井玲、中川裕 訳

  • 音声記号のすべてがわかる言語学の基本図書。
  • 世界の諸言語の記述に用いられるあらゆる音声記号を初めて集大成。個々の記号について、大きく見やすい見出しを立て、それが表す音、そのさまざまな用法と由来、まぎらわしい細部のかたちなどを詳細に解説する。
  • 用語解説、参考文献、各種の音声記号表、索引を付載。

特長

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著者・訳者紹介

[著者]

ジェフリー・K・プラム(Geoffrey K. Pullum)

1945 年英国スコットランド生まれ。ヨーク大学などをへて、1976 年にロンドン大学でPh.D. 取得。現在、カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校教授。専攻、言語学、英語文法、形式言語理論、言語哲学など。最近の著書: The Cambridge Grammar of the English Language. Rodney Huddleston and Geoffrey K. Pullum, Cambridge University Press, 2002

ウィリアム・A・ラデュサー(William A. Ladusaw)

1952 年米国ケンタッキー生まれ。ケンタッキー大学を卒業後、1979 年にテキサス大学オースチン校でPh.D. 取得。現在、カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校教授。専攻、言語学、形式意味論と語用論、統語論と意味論のインターフェースなど。

[訳者]

土田 滋(つちだ・しげる)

1934 年東京生まれ。1960 年東京大学大学院修士課程修了。1976 年イェール大学大学院博士課程修了Ph.D.)。 東京大学教授、順益台湾原住民博物館(台北) 館長などを歴任。現在、帝京平成大学教授。専攻、言語学、オーストロネシア言語学(とくに台湾原住民諸語)。

福井 玲(ふくい・れい)

1957 年岐阜県生まれ。1987 年東京大学大学院博士課程満期退学。現在、東京大学助教授。専攻、言語学、朝鮮語。

中川 裕(なかがわ・ひろし)

1960 年北海道生まれ。1990 年東京大学大学院博士課程中退。現在、東京外国語大学助教授。専攻、言語学、コイサン諸語(アフリカ)

まえがき

 この本は、最初1986 年に出版されたものに最新情報を採り入れ、完全に書き換えた版である。音声表記の用法を、現在の、および歴史的の両面から総合的に扱おうとしたものである。ボアズ(Boas) 学派に属する初期のアメリンディアン研究者の著作、あるいはBloch やSmith やTrager によるアメリカ構造主義音声学・音韻論、そして国際音声学協会(IPA) による国際的にも知られた音声表記法や表記原則の体系などの主要な流儀による音声記号の用法を網羅している。それに加えて、ロマンス言語学者、ゲルマン言語学者、スラブ言語学者、インド研究者、中国研究者、アフリカ研究者などによる、あまり一般的には知られていない表記法もカバーし、さらには音声学の尊敬すべき専門家によって提案されながら、ほとんどの言語学者や音声科学研究者にはなじみの薄い、まれにしか見ない、あるいは廃れてしまった記号も項目としてたてている。

 この版では、初版よりも60 項目ほど増えている。初版で見落としたいくつかの記号を加えたが、1986 年には扱うことのできなかった資料、つまり過去10 年の間に音声表記の用法が改訂され刷新されたが、その間に論文・著書に現れた多くの変更や新しい提案なども採り入れている。

 本書の新しい版を出さなければならなくさせた過去10 年間に起こった一連の出来事とは、IPA の音声字母と表記上の原則を見直そうとする爆発的な運動であった。IPA 体系は、1949 年に『国際音声学協会綱領(The Principles of the InternationalPhonetic Association)』が出版されて以来、40 年にもわたってきわめて安定していた。1979 年のIPA 理事会で、公認された記号リストにわずかの変更を加えることが承認されたものの、一般的にいって、協会ははなはだ保守的な方針を維持してきたのである。この本が最初に出版されたときには、IPA の記号についての取り扱いがわずか10 年のうちに再点検する必要に迫られようとは夢にも思わず、音声表記の方式についての手引きがまた出るのは、ずっと遠い先のことだと思われたのである。ところがなんと、この本が現れてから7 年後には、20 世紀のどの時期よりも激しい変更がIPA 体系に加えられることになってしまった。

 IPA の音声字母を見直そうという議論は、1987 年のいろいろな雑誌論文に始まった。1989 年には特定の改訂を勧告するために会議が開かれた。それ以後の事会の行動は、かなり根本的な改革にまで達するものだった。たとえば、吸着音(click) の記号はすべて取り除かれ、南アフリカの出版物で使われるものに置き換えられた。声調を表すために多方面にわたる新しい方針が導入された。無声入破音(voiceless implosive) を表すための新しい一連の記号が加えられた。補助記号については全体系が総点検されたなど、その他にもたくさんの変更が行われたのである。ところが議論はそれだけに止まらず、4 年後の1993 年には、IPA 理事会はさらなる変更を公表した。その中にはたとえば次のようなものが含まれる。修正(半世紀にもわたって議論がときおり起こっていたが、とうとう[g] と[] とがIPA 体系では同じ音を表すものと公認された)、追加(2 つの新しい母音記号が認められた)、撤回(1989 年に加えられた無声入破音を表す記号が取り消された)。

 ついに異常な沸騰状態はおさまり、1989 年と1993 年に行われた改訂のおかげで、IPA はふたたび新たな安定期を迎えたようである。1993 年改訂版にさらなる改訂を真剣に考えるにいたるのは、これから何年も先のことになるだろう。というわけで、1989 年と1993 年のIPA による変更をすべて加えた本書『世界音声記号辞典』(原題Phonetic Symbol Guide) の改訂版を出版するのは時宜にかなったことであろう。

 しかしながら、本書はIPA の提案の単なる案内書ではないし、また人間の言語音を表記するための記号として、どちらか一方を支持するとか保証するとかいうのでもないという点は、以前と変わらない。初版ではIPA にない音声表記法もすべて採り入れたが、それはこの改訂版でも同じである。それどころか、ある場合にはさらに増補している。私たちの一般的な方針は、すべてを取り込むという方向にあり、したがって、それがよほど個人的な使い方だったり、あるいはその場1 回限りの使い方で、その他には言語や言語関係の科学的な論文にはどこにも見つからないことがはっきりしている場合は別として、活字になっているのを私たちがどこかで見たことがある記号を書き落とすなど、ないはずである。私たちの意図としては、過去百年にわたって言語や言語科学の文献で使われた音声記号が、どういう音を表しているのかを調べるために、読者が『世界音声記号辞典』のこの版を使ってくださればありがたいと思う。

 この版を準備するさいに、初版にあったいくつかの誤りと矛盾点を訂正し、発表された書評で指摘されたもっともな提案は採り上げ、多くの項目における表現法を改善し、表は必要に応じて最新のものに差し替え、さらに読者の便宜を考え、理解を助ける仕組みもいくつか用意しておいた。たとえば、私たちが大項目とした記号すべてについての記号の形と名前を示す項目を要素に分析した一覧表【vii xiiiページ】と、索引がそうである。

 この本を作るにあたって、多くの方々の援助を受けた。Kenneth ChristopherとBrigitte Ohlig は、初版を準備するときに調査を担当しテキストを処理してくれた。Dan Wenger はコンピュータのことに関する貴重な人材だった。Judith Aissen,Jane Collins, Nora England, Mary Haas, Jorge Hankamer, Peter Ladefoged,Aditi Lahiri, Ian Maddieson, L. K. Richardson, William Shipley その他の諸氏からは有益な情報やコメントをいただいた。そしてKaren Landahl は原稿に目を通してたくさんの有用な忠告をして下さった。この新しい版は、キール会議に出席されたたくさんの熟練した音声学者や、世界中の専門機関誌、雑誌で批評して下さった方々から多くの恩恵を受けた。そしてまたMichael Ashby, Francis Cartier, Sandra Chung, John Esling, R. H. Ives Goddard III, Caroline Henton, Kenneth C. Hill, Thomas Hukari, Alan Kaye, Michael McMahon, Philip Miller, Toby O’Brien, William Poser, John Renner, Barbara Scholz, John Seaman, Laurence Urdang,John Wells, Kenneth Whistler, Philip Whitchelo, Arnold Zwicky から有益な情報と援助をこうむった。もちろん、ほかにもたくさんおられることだろうが、会議で出会った人たちから興味深いことを学んでも、たまたまその人たちがそのとき名前を記したバッジを着けていなかったというようなことがあるものである。参考資料をこっそり教えてくださったとか、あるいは提案をしてくださったのに、やっぱりお名前がリストにないという方々には、心よりおわび申し上げる。

 活字になった音声記号で、本書にあげられていないものを見つけられた方は、どうか私たちにご一報いただきたいのである。(その際には、ぜひ、書誌学的な詳細と、できることならばその問題のページのコピーをつけてお送り下さい。)次の住所にお送り下されば連絡がつけられるはずである。

Geoffrey K. Pullum
Stevenson College
University of California,
Santa Cruz
Santa Cruz, CA 95064
U.S.A.

William A. Ladusaw
Cowell College
University of California,
Santa Cruz
Santa Cruz, CA 95064
U.S.A.

訳者によるあとがき(冒頭の一部)

 やぁれやれ、やっと終わった、というのが全員の感慨である。

 この本の翻訳をしないかという話を訳者のひとり土田が受けたのがいつだったのか、よくは覚えていないのだが、原著が1996 年の出版だから、おそらくその翌年、1997 年のことだっただろう。ひとりではとても自信がないから、福井玲・中川裕両氏の協力が得られるのならばという条件つきでお受けすることにした。幸い両氏とも、快く、ではおそらくなかったであろうが、協力を約束されたので、ようやく重い腰を上げてから、なんと5年以上の歳月が流れてしまったことになる。なにしろ3人とも、授業や会議や、フィールドワークや緊急に仕上げなければならない論文や、その他もろもろの雑用に追われる身だから、仕事は遅々としてはかどらない。それぞれの分担分をなんとか仕上げてからも、訳の間違いや訳語、用語の不統一などをつぶすべく、3人の日程を調整して集まるのだが、これまた困難を極めた。これまでもふたりの共訳という経験はあったが、3人となると格段にむずかしくなる。そのうちに国際音声学協会からHandbook of the International Phonetic Association, A Guide to the Use of the International Phonetic Alphabet (Cambridge University Press, 1999) という本までもが出版されてしまった。しかし、これは本書を翻訳する際に、あちこち参照しながら比較検討することができたから、かえって幸いだった。

 とはいえ会合を重ね、先が見えるようになってからは、編集会議をこなしたあと、みんなで一杯やりながら交わすあれこれの雑談が、次第に楽しみになってきた。これをテーマにおもしろい音声学エッセーが書けそうだねなどと言っていたのだが、酔っぱらったあげくのことだから、あらかたはすぐさま忘れてしまったのがまことに残念である。

 さて翻訳本のあとがきがたいていそうであるように、いろいろな言い訳やらお断りやらをしなければならない。あまりにたくさんありすぎて、本文に訳者注として組み込むのも難しいので、ここは順不同で、箇条書きにしておこう。

 " 原著のタイトルはPhonetic Symbol Guide(以下、PSG と略称する)、すなわち『音声記号ガイド(ないし案内)』であるが、これを『世界音声記号典』とさせていただいた。辞典の三省堂だから、と考えて下さればいいわけだが、音声記号がアルファベット順に並べられ、その記号が意味するところ、つまりそれがどういう音声を表し、どのような由来を持っているのかなどを記述してあるのだから、立派な辞典と言ってよい。しかもある特定の言語に偏らず、世界中どの言語の音であろうとも扱っているのだから、世界と銘打っても偽りではなかろう。

 " 読みやすさを念頭において、原著にない改行を入れた場合がある。また、原著の小項目では「IPA の用法」「アメリカの用法」「解説」など、すべて段落なしに書かれているが、これもそれぞれに改行して読みやすくした。そうしても、本文のページはちょうど原著の本文のページと一致するようにレイアウトしてあるので、原著と翻訳を対照して読みたい場合には、該当箇所を探すのが楽であろう。

 " 言語名は、原則として『三省堂言語学大辞典』(1988 93) によることにした。まれに違うこともあるが、それが何という言語であるかは、熱心な読者の探索におまかせしておこう。ちょっとしたクイズである。

(以下、省略)

目次

まえがき iii
項目一覧 vii
序 説 xv
音声記号項目 1
補助記号項目 230
用語解説 269
参考文献 279
記号表 291
基本母音1_8  293
基本母音_16  294
非円唇母音を表すIPA の記号 295
円唇母音を表すIPA の記号 296
Bloch and Trager の母音記号 297
アメリカの用法による母音記号 298
Chomsky and Halle の母音体系 300
アメリカの用法による子音記号肺気流機構阻害音 301
アメリカの用法による子音記号肺気流機構共鳴音 302
IPA による子音記号子音(肺気流機構)  303
IPA による子音記号子音(非肺気流機構)  304
IPA による超分節素記号 305
IPA による補助記号 306
索 引 307
用語索引 308
言語名・用例索引 326
記号名索引 333
訳者によるあとがき 341
索 引 307
用語索引 308
言語名・用例索引 326
記号名索引 333
訳者によるあとがき 341