三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺
広辞林 第六版
- 定価
- 6,270円
(本体 5,700円+税10%) - 判型
- A5判
- ページ数
- 2,210ページ
- ISBN
- 978-4-385-13037-X
-
改訂履歴
- 1907年(明治40年)
- 辞林 発行(同44年改訂)
- 1925年(大正14年)
- 廣辞林 発行
- 1934年(昭和9年)
- 廣辞林新訂版 発行
- 1958年(昭和33年)
- 新版広辞林 発行
- 1973年(昭和48年)
- 広辞林第5版 発行
- 1983年(昭和58年)
- 広辞林第6版 発行
明治40年以来の伝統に輝く百科的国語辞典の最新版。
- 明治40年以来の伝統に輝く百科的国語辞典の最新版。
- 新語・新情報を豊富に補充し,「常用漢字」を全面採用。最新の表記を示した唯一の大型国語辞典。
- 収録語数16万語。
- 現代の言語生活により密着させ,百科事項も多数収録し,的確・詳細に記述した。
- 付録多数。
特長
関連リンク
武藤康史氏(評論家)の寄稿をお読みいただけます。
さらに詳しい内容をご紹介
まえがき
言語は時間とともに変遷する。変遷の様相は多様であり、同時に法則的ではあるが、その速度は、長い歴史の中で、時期により必ずしも一定ではない。音韻をはじめとして文法・語彙はもちろん文字や表記に至るまで、およそ言語現象のすべて、変遷の埒外ではないが、その変化はこれまた必ずしも併行的には起こらない。言語を用いる個性すなわち人間が、次々に生起消滅し、あるいは各地域へ分散集中し同化する中で、また、異文化との接触の過程で、社会生活・文化的創造等における人間の言語活動の結果として、言語は常に静かに変化していく。速度を早める要因に若者たちがおり、年輩者から言葉の乱れと顰蹙をかい、言葉を正そうという力が変遷の速度をゆるめる。その両方の力の均衡が少しずつくずれ、言語は変遷する。従って実は、言語が自ら変わるのではなく、その使用主体たる人間の生々しい営みの中で、人間が変わり、人間が言語を変化せしめるのである。
人間が移ろい、言語が変遷する中で、なおかつ言語にはしかし変わらざる部分も少くない。微妙なずれがないとは常に断言はできないが、基本的には変わらざる部分がむしろ多い。ここに、現代に生きるわれわれを、言語文化の上限である古代にまでつなぐ直接のきずながある。現代の文化の後背地としての過去に、われわれは言語を通じてむすばれている。
こう考えるとき、およそ辞書には、その編修の性格に、自覚のあるなしにかかわらず、二つの立場が認められる。一つは、その対象とする言語を時間的な流れにそってとらえる立場である。一つは、言語を現在の視点でとらえる立場である。前者は、古代から現代に至る時間の流れとともにある言語を、その流れに応じて、あるいはその流れの一時期を区切って、そのままにとらえ記述する方法であって、古語辞典や時代別辞典はその典型である。後者は、常に時間とともに歩んでその先端に存在し、常に現在を中心に言語をとらえる。その記述する対象は、必ずしも現代語であるとは限らない。この立場では、過去も、現在を起点に、その現在の必要とする過去の言語文化を収める。本書はまさに、この後者の立場にある。
明治四十年に、本書が、言語学の泰斗金澤庄三郎博士の手により成って以来、脈々として生き続け、今まさに七十七の寿を迎えようとしている。この間、とりわけ昭和前半期においては一世を風靡し、識者により広辞林時代とよばれたその呼称にふさわしい充実をみ、その充実は、時代の情報の増大に応じて今日さらに豊かにふくらみをみせている。わが国で、後続の辞書編修の底本となったばかりでなく、日本を代表する辞書として海外の日本語研究の基盤となっている。初版より数えて六度目の版を改めて、今第六版を世に送ろうとしているが、本書の基本的な立場は、一貫して常に現在とともにあることに変わりがない。現在は時間とともに進行する。明治四十年初版の時点で真に現代に生きた本書は、昭和三十三年の四版においてまた現代に生き、今日また現代に生きている。これが本書の伝統の真骨頂である。明治四十年の現在は、すでに大正十四年第二版の現在ではなく、大正十四年は昭和九年第三版の現在でもない。昭和九年は昭和三十三年ではなく、まして今日の第六版の現在ではない。現代に用いられる日常語である和語(本来の日本語)・漢語(もと外来語であった)、主に片仮名で表わされる外来語はもちろん、百科万般の事項に関する語句、専門用語、固有名詞を中心に、現代人の必要とする過去の言語(古語から仏教語等々)に至るまで、常に改訂時における現代の必要を充してきた。今日、必要としない歴史的過去の言語とそれの伝える情報を削っても、補充せねばならぬ内容は無限に近く多い。きびしい選択を行なってなお、現代人に必要にして十分の十六万余語とそれに含まれる情報量は、初版時の約三倍にのぼる。
現代はまさに情報社会である。その現代にふさわしい言葉の意味用法の広がり、外来語の増大、社会用語・文化用語・科学用語の知識は多岐厖大に亘る。本書は可能の限り精選して現代を収め、また、心のふるさとであり、現代のよって立つ基盤である過去の言語と情報を現在の立場でとらえている。たとえば、中辞典で唯一、漢字表記を常用漢字による現代表記の視点で示し、歴史的表記とともに世上に提供するのも、その現われの一つである。本書が、現代人の知識の宝庫として、実際の言語生活のよりどころとして、活きて用いられることを希望する次第である。われわれは、第六版刊行と同時に、次に来たる現在へ向けて、その歩みを続ける所存である。
1983年 7月
三省堂編修所