三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺
世界のことば100語辞典 ヨーロッパ編
ヨーロッパ31言語の基本語100語を対照
世界初のマルチ・リンガル小辞典
- ヨーロッパ31言語の基本語100語を対照させた、世界初のマルチ・リンガル小辞典。
- 楽しいエッセイも満載。外国語や辞書に関心のあるすべての人が、同じように楽しめる新型の辞書。
- アジア編と同時刊。
特長
さらに詳しい内容をご紹介
まえがき
世の中に不思議なことはさまざまあるが、なかでもきわめつけは「ことば」。考えれば考えるほど、ことばは不思議な存在だ。この地球上に8000もあるということばは、それぞれに独自性を主張しながら、それでいてどこかで互いにつながっている。こんなことばの多様性と類似性を一望のもとに見渡すことができるようなパノラマを提供し、ことばを知る楽しさやおもしろさを存分に味わってほしい、そんな願いからこの本は生まれた。
もとより専門家を対象にした本ではない。しかし、だからこそよけいに、内容は正確で信頼できるものでなくてはならない。この本の主旨に賛同してお集まりくださった執筆者は、当代の日本でそれぞれのことばの世界を代表するもっとも信頼できるエキスパートぞろいである。このかたがたがご自分のことばの楽しみ方を明かしてくれる、これがおもしろくないわけはないだろう。
本書は、「ヨーロツパ編」(31のことばを収録)と「アジア編」(28のことばを収録)の2冊にわけて刊行されるが、それぞれの構成は基本的に同じである。各編は大きくわけて4つの部分からなっている。
(1)ことばの楽しみ方をつづった編者自身によるエッセイ。
これは全体へのプロローグのようなもの。
(2)各ことばの担当者による「おらがことば」のプロフィー
ルの紹介。各ことばの現況がごく簡潔に示される。
(3)合計59のことばについて、その基本語彙100語を対照
させた一覧表。ことばの眺望を満喫してほしい。
(4)担当者各自のことばの楽しみ方を開陳した味わい深く
楽しいエッセイ。
この本の中心部分をなす基本語彙100語リストをつくったのは私たち2人の編者である。100語をどう選ぶかはじつに大問題だった。しかし、アジアとヨーロツパの59のことばにまんべんなく適用できる基本語彙リストをつくることは、はじめからできない相談だった。「海」のない国や「雪」のふらない国はた くさんあるし、人はみな「米」を主食にしているわけではないからだ。
執筆者にはこのリストそのものに対するうらみやつらみを書いて下さっても結構です、という条件でご参加いただいた。それからもうひとつ、この100語リストの最後の100語目はわざと空白にしておいた。それぞれのことばの理解にとって重要な意味をもつ1語を執筆者自身が選んでください、そしてその語をテーマにしてエッセイをお書き下さい、というちょっと意地の悪いお願いをした。
それぞれのことばにはそれぞれの研究の歴史がある。その歴史のなかで、それぞれのことばの特性にもとづいた表記上の慣用が生まれている。さらには、それを日本語でどう表記するかという問題も加わってくる。そのために、できあがったこの一覧表をよくよくながめると、表記の上で精粗さまざまな幅や不統一がみとめられる。ことばの正確な対照のためには、そのような不統一が一掃されることがのぞましいかもしれないが、残念なことに現状ではそれはいかんともしがたいことだった。とはいえ、そのことがこの本の目的にとって大きな障害になることはないと信じている。本の性格上、当然のことながら、この本ではおもに「語」(一般には、単語とよばれている)をあつかっている。ことばの探究としては、語ばかりでなく文法にも目を向けていかなくてはならないのはもちろんのことだ。しかし、ことばがつくりだす不思議の森に分け入っていこうとしている読者にとっては、まずはとっつきやすい語からはじめるのがいちばん入りやすいのではあるまいか。
こうして、世界でもはじめて(といってよいだろう)というちょっと見かけない本ができあがった。貴重な資料や知見を惜しげもなく披露してくださった執筆者の先生方にお札を申し上げたい。あとは読者の普さんが楽しむ番である。さあ、世界のことばを楽しむ旅にでかけよう!Bonvoyage!
1999年5月
石井米雄
千野栄一