三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺
言語学大辞典セレクション 日本列島の言語
『言語学大辞典』所収の「アイヌ語」「日本語」「琉球列島の言語」の3項目をまとめた分冊版。
- 『言語学大辞典』(世界言語編)所収の「アイヌ語」「日本語」「琉球列島の言語」の3項目をまとめた分冊版。
- 古来,日本で話されてきたことばを言語学の立場から詳説した。
- 国語学・日本語学研究者必携。大学用テキストにも最適。
特長
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まえがき
1988年から足掛け6年の歳月を費やして「言語学大辞典」「世界言語編」は完成した。
さいわいなことに,「世界言語編」はその後1996年に刊行された同辞典「術語編」とともに,言語学界における空前の事業として高い評価を受けることができた。国外においても,その水準の高さ--収録言語数の豊富さと記述の精確さ,豊かさ--が大きな反響をよんだ。 この辞典の刊行が半ばに至った時期,これに触発されるかのように,各国の言語研究,とりわけ消滅しつつある言語についての研究が一段と伸展する気運が生じてきた。同辞典にかかわった少なからぬ執筆者たちは,すでに海外の多くの研究者とともに,消滅しつつある言語を初めとする諸言語の調査研究に直接たずさわってきた。同辞典は,そうした活動にもとづく精確な言語事実の提示によって,多くの研究者に,従来の研究への反省と新たな探求への刺激を与えている。また,数多くの読者の,言語を見る目を大きく開く,その基盤ともなっている。
ところで,刊行後すぐに,同辞典は多くの大学や教育機関等で,授業などに使用されるところとなった。しかし,何分にも大著であり,ぜひとも簡便な分冊を作成してほしいとの要請が各所から寄せられた。
そのような状況の下,編著者は,同辞典の簡便化へむけて検討を加えてきた。
その場合,同辞典を300ページほどの冊子に分けて五十音順に刊行することも可能であり,また,分冊ではなく,携帯の便のために,単純に判型を縮めて刊行することも可能であったろう。しかし,読者の要望は,語族・語派別あるいは地域別といった系列性のある分類にあった。それはまた,われわれ編著者のかねての考えと一致していた。しかし,事はそれほど単純ではなかった。語族・語派や「諸語」に分類すること自体,その方針で終始一貫するわけにはいかない。言語は,そう簡単に分類できるものではないし,系統の不明な言語も少なからずあるからである。また,地域別といっても,地域に分ければ,各種の系統の言語が入り混じってしまう。類型論的な分類も抽象的には可能であろうが,現実には一つの言語が一つの類型のみに収まるというわけではない。
こうして,考えうるのは,系統と地域をミックスし,さらに,その知名度が比較的高く,かつ言語的により興味深い言語を選択的に採用する方法であった。このような方針のもとに検討を加えた結果,ここに,まず,もっとも要望の強いものの一つである「日本列島の言語」を一冊にまとめることになった。これには,現在,わが国で行なわれている「アイヌ語」「日本語」「琉球列島の言語」が含まれることになる。
アイヌ語が日本語と祖語を同じくするものではないかとの仮説は,明治・大正・昭和期を通じて,その立場や観点には差異があるものの,長い期間根強くあった。その一方で,かなり早くから,アイヌ語と日本語は系統を全く異にする言語であるとの説が強く押し出され,今では,その考えが常識となっている。
一方,琉球列島の言語が,日本語と唯一,親縁関係にあることは確実であるといえる。しかし,現在では,琉球列島の言語と日本語とは相互理解が不可能なほどに大きく異なっており,その分岐の時代や,その祖語のあり方については,いまだ推測の域を出ていない。
ここに,これらの項目を一分冊としてまとめるにあたり,言語学の立場から執筆されたこれらの言語を比較・対照して研究するならば,従来の研究に束縛されないひとつの大きな成果が得られる可能性を持つであろうことを強調しておきたい。たとえば日本語について言えば,「国語学」という枠の中に収まって,他の諸言語の中での日本語の特性を見ることの少ない現状にあっては,他の諸言語の中の日本語という観点への第一歩になるであろうことは間違いない。
長年にわたって言語学としての日本語学を提唱してきた同辞典の編修主幹のひとり,亀井 孝氏は,「世界言語編」完成後,「術語編」の編修の途次に,不帰の人となられた。その霊に捧げるばかりでなく,日本語の,より広い,より深い研究のためにも,また,アイヌ語,琉球列島の言語の研究の伸展のためにも,本書が活用されることを切望する次第である。
なお,本分冊を編修するにあたっては,原本である「言語学大辞典」「世界言語編」の活版清刷を利用して再編成した。したがって,原本刊行以降の執筆者および学界の研究動向には触れることができなかった。対処できたのは,必要最小限の誤記・誤植を訂正することであった。ここに,各言語が収録された巻の発行年次を記し,本分冊の記述はその時点での到達点であることを明記しておく。とはいえ,こうした最小限の措置によっても,本分冊の価値はいささかも減じることはないであろう。現在における到達点の大綱は,すべて本書に収められていると言ってよいからである。
「世界言語編」第1巻 1988年3月1日 アイヌ語
「世界言語編」第2巻 1988年9月10日 日本語
「世界言語編」第3巻 1992年1月20日 琉球列島の言語
「補遺・言語名索引編」第5巻 1993年7月10日 琉球列島の言語 奄美方言
本書により,数多くの方方がこれらの言語についての知識を広げ,その真髄をつかみ,それによって,世界の中でのこれらの言語の考察が一段と深まることを願うものである。
1996年12月1日
河野 六郎
千野 栄一
目次
アイヌ語
(田村 すず子)
[序 言][方 言][系 統][記 録][研究史][音 韻]
[文 法][語 彙][地 名][文 学][辞 書][参考文献]
日本語
0) 総 説 (南 不二男)
I) 日本語の特質 (河野 六郎)
II) 日本語の歴史 (亀井 孝)
II-1)日本語の歴史 音韻 (山口 佳紀)
II-2)日本語の歴史 漢字音 (林 史典)
II-3)日本語の歴史 アクセント(小松 英雄)
II-4)日本語の歴史 書記 (小松 英雄)
II-5)日本語の歴史 文法 (渡辺 実)
II-6)日本語の歴史 敬語 (鈴木 丹士郎)
II-7)日本語の歴史 語彙 (前田 富祺)
III)現代日本語の輪郭 (南 不二男)
III-1)現代日本語 音韻 (上村 幸雄)
III-2)現代日本語 文字・表記 (佐竹 秀雄)
III-3)現代日本語 文法 (寺村 秀夫)
III-4)現代日本語 待遇表現 (杉戸 清樹)
III-5)現代日本語 語彙 (宮島 達夫)
III-6)現代日本語 方言 (加藤 正信)
III-7)現代日本語 言語活動 (野元 菊雄)
IV)研究史 (古田 東朔)
琉球列島の言語
0)総 説 (上村 幸雄)
I)沖縄北部方言 (島袋 幸子)
II)沖縄中南部方言 (津波古 敏子)
III)宮古方言 (狩俣 繁久)
IV)八重山方言 (狩俣 繁久)
V)与那国方言 (高橋 俊三)
VI)古典琉球語 (高橋 俊三)
VII)奄美方言 [概説・音韻] (上村 幸雄)
[文 法] (須山 名保子)