方言学入門

定価
1,980円
(本体 1,800円+税10%)
判型
A5判
ページ数
144ページ
ISBN
978-4-385-36393-6

さまざまな方言に触れ、楽しく学べる待望の本!

木部暢子、竹田晃子、田中ゆかり、日高水穂、三井はるみ 編著

  • 方言地図やことばの仕組み、コミュニケーション、社会の変化から、多角的にことばの地域差を解明し、日本の社会を考える。
  • 方言調査のヒントが得られる「調べてみよう」。
  • 理解を深める図表・関連資料、約150点。

特長

さらに詳しい内容をご紹介

まえがき

この本を手に取ってくださった方へ。まず、ぱらぱらと本のページをめくってみてください。たくさんの図表が目に入ってくると思います。左側のページに文章、右側のページに図表、これがこの本の基本型です。

図表をふんだんに盛り込んだのは、できるだけ多くの人に、全国の方言の様子を知っていただきたいと考えたからです。多くの人にとって、全国各地の方言はおそらく、「○○方言」という漠然としたイメージだけの存在で、具体的な内容については、ほとんど未知の世界だと思います。最近は、マスメディアで方言が流れることが増えてきましたが、それでも、それはごく一部の方言に限られています。共通のバックグラウンドがない中、各地の方言の状況を理解してもらうにはどうすればよいか。その答えが図表をふんだんに使うということだったのです。

また、大学や短大で「方言学」の講義を担当している教員には、授業の内容に合わせて図表資料を作っている人がたくさんいます。「このような資料が共有できたらな」ということも、図表を多く載せたことにつながっています。

この本のもう一つの特徴は、地理的なことばの違いと同時に、それが社会の中でどのように位置づけられているか(位置づけられてきたか)を取り上げた点にあります。

方言の全国調査は、最初は標準語の普及のためという名目で行われました。それ以降、方言は標準語に比べて劣るものという価値観を背負わされ、それでも力強く生きてきました。しかし、近年、各地の方言が消滅の危機に直面するという事態が生じています。「消滅の危機」というと、アイヌ語や琉球語、八丈語のことだと思われるかもしれませんが、本土の方言も例外ではありません。本書でも述べているように、むしろ、都市に近いところの方言のほうが危機の度合いが高いかもしれません。

このような状況と反比例して、方言の評価は上昇傾向にあります。ネットやメールの文章に方言が使われ、街には方言看板が多く見られるようになりました。「書き言葉」になるくらい、方言の価値が上がったわけです。

方言は社会を映す鏡のような存在です。方言のもつこのような側面については、この本の第4章、第5章で取り上げています。

この本は、5章立てで、各章に5~6の課を設けています。各章と各課は独立していますので、どこから読んでもかまいません。また、途中をとばして読んでもかまいません。付章「調べてみよう」では、章ごとに調査のテーマを例示し、調査のためのヒントをあげています。この本を読んでくださった方が一人でも多く付章を利用して、方言を調査してくだされば、こんなに幸せなことはありません。

最後に、図表の転載について、快く承諾してくださいました原著者の方々に深く感謝申し上げます。最初に申しましたように、この本は、図表の力に多くを負っています。原著者の方々のご承諾なしには、そもそもこの本自体が成り立ちませんでした。本当に、ありがとうございます。また、この本の企画と作成に最初からかかわり、私たちを叱咤激励しつつ出版まで引っ張ってくれた三省堂の飛鳥勝幸さんにも深く感謝いたします。


2013年5月

木部暢子

編著者紹介

木部 暢子(きべ・のぶこ)

国立国語研究所時空間変異研究系教授
担当:1章1課・2課・5課・6課、2章1課~4課・6課、4章1課・3課、5章6課

竹田 晃子(たけだ・こうこ)

国立国語研究所時空間変異研究系特任助教
担当:1章2課・5課・6課、2章6課

田中 ゆかり(たなか・ゆかり)

日本大学文理学部教授
担当:5章1課・3課~5課

日高 水穂(ひだか・みずほ)

関西大学文学部教授
担当:1章3課・4課、3章4課・5課、4章4課・6課、5章2課

三井 はるみ(みつい・はるみ)

国立国語研究所理論・構造研究系助教
担当:2章5課、3章1課~3課、4章2課・5課

目次

目次

まえがき
第1章 地図から見えることばの地域差  8

第1課 方言の区画  8

[1]東條操の方言区画  8

[2]言語と方言  10

第2課 方言の東西差  12

[1]東西対立分布  12

[2]東西対立分布の例  14

第3課 周圏論的分布  16

[1]古語は辺境に残る  16

[2]近畿中央部方言の影響力  18

第4課 逆周圏論的分布  20

[1]辺境で進む言語変化  20

[2]言語変化を抑制する規範意識  20

第5課 いろいろな分布  24

[1]方言分布のタイプ  24

[2]遠隔地に分布する類似語形の解釈  26

第6課 グロットグラム ── 地点×年齢差 ──   28

[1]グロットグラムとは  28

[2]斜めの等語線  28

[3]見かけの時間の変化と実時間の変化  30
第2章 ことばの仕組みから見える地域差  32

第1課 発音の地域差  32

[1]母音の地域差  32

[2]子音の地域差  34

第2課 アクセントの地域差  36

[1]アクセントの全国分布  36

[2]諸方言のアクセント大系  38

第3課 イントネーションの地域差  40

[1]疑問文は上昇調?  40

[2]新しいイントネーションの誕生と伝播  41

第4課 アスペクトの地域差  44

[1]東日本の「ている」、西日本の「よる」「とる」  44

[2]アスペクト体系の東西差  46

第5課 条件表現の地域差  48

[1]順接仮定条件表現 ── 「ば」と「たら」の地域差 ──   48

[2]原因理由表現  50

第6課 方言のオノマトペ  52

[1]オノマトペとは  52

[2]オノマトペと名詞・動詞・形容詞  52

[3]オノマトペの地域差  54
第3章 コミュニケーションから見えることばの地域差  56

第1課 あいさつの地域差  56

[1]朝の出会いのあいさつ  56

[2]買い物のあいさつ  58

第2課 話の進め方の地域差  60

[1]相手に説明するときの話し方  60

[2]お祝いを伝えるときの話し方  62

第3課 コミュニケーション意識の地域差  64

[1]関西的な会話スタイル  64

[2]会話スタイルを支えるコミュニケーション意識  66

第4課 昔話の語り方の地域差  68

[1]昔話の様式性  68

[2]昔話の「語りの型」  70

第5課 待遇表現の地域差  72

[1]敬語表現の地域差.  72

[2]卑罵表現の地域差.  74
第4章 社会の変化から見えることばの地域差  76

第1課 共通語化・標準語化  76

[1]共通語・標準語化の全国的な傾向  76

[2]共通語化の進み方  78

第2課 方言と共通語の使い分け  80

[1]場面による使い分け意識  80

[2]談話に現れる使い分けの実相  82

第3課 伝統方言の現在  84

[1]哀退が速い語(表現)、遅い語(表現)  84

[2]方言に対する意識  86

第4課 中間方言の発生  88

[1]ネオ方言  88

[2]気づかない方言と疑似標準語  90

第5課 新しい方言の発生と広がり  92

[1]新しい方言の発見  92

[2]新しい方言の広がるはやさ  94

第6課 近代化によることばの地域差  96

[1]学校方言  96

[2]新しい事物・制度に関する用語  98
第5章 「方言」から見える日本の社会  100

第1課 方言の社会的位置づけの変遷  100

[1]方言に対する受けとめ方  100

[2]新聞記事・投書に見る方言の社会的価値の変遷  100

[3]「方言コンプレックス」から「方言プレステージ」へ  102

第2課 地域資源としての「方言」  104

[1]観光誘致に活用される方言  104

[2]「生活言語」から「イメージ創出言語」へ  106

第3課 言語意識から見た地域類型  108

[1]言語意識から見た地域類型  108

[2]方言と共通語の使い分けの観点から見た地域類型のいろいろ  108

[3]類型間の比較  111

第4課 ヴァーチャル方言と方言ステレオタイプ  112

[1]リアル方言とヴァーチャル方言  112

[2]方言ステレオタイプとその背景  113

第5課 社会現象としての「方言」 ── 「方言コスプレ」という現象 ──   116

[1]「方言コスプレ」とは?  116

[2]「方言コスプレ」の背景  177

[3]「方言らしさ」を表す部分  118

第6課 方言研究の社会的意義  120

[1]標準語選定のための方言調査  120

[2]方言の成立や地域の言語生活を解明するための方言調査  121

[3]社会に貢献する方言研究  122

付 章

調べてみよう  124

主要参考文献  129

主要索引  135

編著者紹介  143