「今年の新語2018」の選評

3.  負の感情の婉曲表現「モヤる」

2位 モヤる

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

もや・る[モヤる](自五)〔俗〕もやもやする。特に、不満や不愉快(フユカイ)、反発を、ばくぜんと感じる。「見ると━投稿(トウコウ)はブロックする」〔二〇一〇年代に広まった ことば〕

2位に選ばれたのは「モヤる」でした。「もやもやする」「もやっとする」の省略形です。「えっ、そんなことばが2位なの」と、それこそモヤる人がいるかもしれません。

「今年の新語」では、2016年に「もやもやする」「モヤる」の投稿が1通ずつありましたが、選考委員会では、これらをベストテンの候補にはしませんでした。それでも、SNSなどで、これらのことばが不満などを表すのに使われている例を、しばしば見つけることがありました。たとえば、「知らない人から偉そうに指摘されて、もやもやする」。あるいは、「職場の上司から理不尽な指示を受けてモヤる」など。  

これは、昔からの「もやもやする」と同じ用法でしょうか。『三省堂 現代新国語辞典』(現新国)の第5版(旧版)で「もやもや」を引くと、靄(もや)がかかった様子の意味のほか、〈すっきりしないようす。「胸の中が―する」〉という意味が記されています。これが以前からの用法です。友人と、べつに喧嘩(けんか)したわけではなくても、何となくぎくしゃくして、気持ちがもやもやする。「もやもや」は、うまく整理できない、複雑な心理を表します。

一方、最近の例を見ると、「もやもやする」「モヤる」は、すっきりしないだけではなく、もっと明確な負の感情にも使われています。〈見るとモヤるコの投稿は、バンバンミュート(=投稿を表示しないこと)するべし〉(『Seventeen』2018年11月号)という場合の「モヤる」は、「不愉快な」の意味と解釈されます。

2018年刊行の『現新国』第6版(最新版)には、「もやもや」に〈釈然としない・納得できない〉という意味が加わっています。「もやもやする」「モヤる」は、不満や反感、怒りなども含めた、負の感情を婉曲に表現することばとして使われます。  

この用法の「もやもや」が最近増えていることは、主要全国紙での出現度数を見るとわかります。「にこにこ」「どきどき」「ふらふら」などのオノマトペが漸減傾向にあるなかで、「もやもや」は、ここ10年ほどの増加傾向が際立っています。新聞で「もやもや」を婉曲表現に使うことも多くなったためと推測されます。

「モヤる」のほうは、ここ数年で急に多く使われだしました。ツイッターで、ある任意の2日間の発言を標本調査すると、「モヤる」の度数は2010年に1ケタだったのが、2013年には2ケタになり、2017年には100件を超えました。もっとも、今のツイッターは、発言数全体が昔より多くなっていますが、「メモる」「ぐちる」「事故る」などの増え方(それぞれ2~6倍以内)と比べても、「モヤる」の増え方は際立っています(100倍程度)。  

SNSの世界では、激しい罵り合いが横行する一方で、自分の負の感情を直接的に表現せず、トラブルを回避しようとする傾向も見られます。トラブル回避のための婉曲表現である「もやもやする」「もやっとする」、さらには同義語「モニョる」などを代表する形で、「モヤる」が2位にランクインとなりました。

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