2015年の選評
5.略語形が物語るモノの定着度
8位から10位には、「語形としては以前からあるが、最近になって新しい意味で使われ始めたことば」が、たまたま連続しています。
8位の「爆音」は、爆発するときや、エンジンが鳴り響くときの音だとばかり思っていたら、鼓膜が破れそうな「すごく大きな音量」の意味でも使われています。ツイッターでは「ロックを爆音でかける」「爆音で音楽を聴く」などの例が続々出てきます。
『三省堂現代新国語辞典』風
ばくおん【爆音】〈名〉 ①爆発の音。②飛行機・自動車・オートバイなどのたてる音。③(最大限の)とても大きな音量。「━で音楽を聴(き)く」「━上映[音量を最大限に上げて映画を上映すること]」
調べてみると、1999年の書籍『音楽誌が書かない「Jポップ」批評』(宝島文庫)に〈R&R〔=ロックンロール〕を耳を覆いたくなるような爆音でプレイする〉とあるなど、比較的以前から例が存在します。ただ、「多くの人が使っていることに気づいた」ということで、今年の新語に。
9位の「刺さる」。従来は「先輩の忠告が胸に刺さる」というように、「胸に」「心に」をつけるのが一般的でした。ところが、「女の子の大人びた表現が刺さった」のように、単に「刺さる」と言う例が出てきました。
『三省堂現代新国語辞典』風
ささ・る【刺さる】〈自動五段〉 ①先のとがったものが、ほかのものの中にくいこむ。「とげが―」②強い刺激(しげき)をあたえる。「その一言が胸に刺さった」③深く納得したり、共感したりできる。「━キャッチコピー」「なんも刺さらない答辞」[用法]①②が、傷つけるものであるのに対して、③は、感動したり、自分にとってよいと思えるものについて言う。
意味も変わっています。従来は、そのことばを受けた人が心を痛めたり、反省したりする場合に使いました。それが、「刺さるキャッチコピー」のように、強い印象を受け、感心したり感動したりする場面にも使うようになっています。
選考委員が「刺さる」の変化に最初に気づいたのは2011年のことでした。今は新用法がいっそうよく目につくようになりました。
10位の「斜め上」。「予想の斜め上を行く」などと使います。「予想外」「想定外」の状況のことか、と思っていましたが、どうも少し違うらしい。
『三省堂国語辞典』風
ななめ うえ[斜め上](名)①ななめに ずれた、上がわ。「右━」(⇔斜め下)②〔俗〕それまでの流れからは考えられないこと。「予想の━を行く展開・━の反応」
「テストで70点取れると思っていたら100点取れた」というのは「斜め上」ではありません。程度の違いだけではだめなんですね。たとえば「70点取れるかと思っていたら、出題範囲に誤りがあってテストそのものがやり直しになった」みたいなのが「斜め上」に相当するでしょう。言い換えれば、思わず「そっちか!(そう来たか)」と言いたくなるような状況です。
発祥は、冨樫義博さんの1990年代の漫画「レベルE」からとも言われます。だとすると、生まれてから年数を経たことばです。ただ、一般化したのは比較的最近です。選考委員の一人は、この用法自体は前から知っていましたが、正確な意味がもうひとつよく分かりませんでした。今年に入り、いろいろな例に接するようになって、ようやく意味がつかめました。