2015年の選評
6. 「エンブレム」はあえて選外
ランキングの選評はこれで終わりです。このほか、ちょっと気になることばについて、「候補外」として触れておきます。
ひとつは「とりま」。「とりあえず、まあ」の略語です。『現代用語の基礎知識』では2006年に「とりまー」の形で1度だけ現れて消え、2008年から「とりま」として載り続けています。すでによく使われていて、「今年の新語」とはしにくい感じです。
『三省堂現代新国語辞典』風
とりま〈副〉 (←「とりあえず、まあ」)そう突き詰めて考えたわけではないが、やっておくのが正解だという気持を表す語。「━メールしとくわ」
ただ、今年は高校生デモのコールで使われたりして、多くの人の知るところとなりました。また、こんなふうにフレーズを略すのは面白い例と言えます。で、この際、「とりま紹介してみた」というわけです。こうしたフレーズ略語で、すでに定着した例としては、「あけおめ」「ことよろ」などがあります。
ネットの会話では、「これ、マジ?」から来た「こマ?」などという大胆なフレーズ略語もあります。興味深く観察しているところです。
もうひとつは「エンブレム」。今年7月に、東京五輪・パラリンピックのシンボルマークが発表されました。ところが、そのオリジナリティーに疑問が出て、ついに取り下げという事態にになりました。多くの人は、この時、五輪のシンボルマークのことを「エンブレム」と呼ぶことを知ったはずです。
『新明解国語辞典』風
エンブレム〔=記章〕 ①オリンピックなどの国際的な催しで、その意義を端的に表した図案。関係者が着用するブレザーコートの胸につけたり、腕章としたりする。〔狭義では、校章を指す〕 ②自動車のボンネットの前などにつける、製造会社名や車種名を示す装飾的な紋章や記号。
「エンブレム」は、「記章、紋章」や「ブレザーなどにつけるワッペン」のことを言います。これに加えて、シンボルマークの意味を新たに辞書に記述すべきかもしれません。
ただ、この呼称が、五輪以外にどのくらい広く使われているか、はっきりしない部分もあります。10月にはラグビーW杯の日本大会のマークが発表されましたが、新聞各紙の報道では「大会ロゴ」などと記されています。呼び方は「エンブレム」に限らないんですね。
「エンブレム」は、今年非常に話題になったことばではありますが、応用範囲の点で疑問を残すため、あえて選外としました。
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皆さんのご協力により、「今年の新語」の豊かな収穫を得ることができました。改めてお礼を申し上げます。今回集まったことばの中には、ほかにも辞書に載る可能性のあるもの、記述の見直しのヒントになるものが多く含まれています。今後の辞書編纂に生かしていきます。
ご覧になって、「自分なら違うランキングを作る」と考える人もいるでしょう。それも当然だし、大いに結構だと思います。正解は1つではありません。このランキングが、皆さんの新語に対する関心を深めるきっかけになれば、うれしく思います。ここまで読んでくださって、ありがとうございました。