選評 目次
SNS時代の美を語る「映(ば)える」
1. 「大物の後」でやりにくかった
今回(2018年)の新語を選ぶ作業は、ひとことで言えば「やりにくかった」というのが正直なところです。というのも、前回(2017年)の大賞に、「忖度(そんたく)」という急激に社会に浸透したことばが選ばれ、その存在感があまりにも大きかったからです。すぐれた代表者の後任を決める作業が難航する、というのに似ています。
「忖度」は、単なる「推測」の意味に加えて、「相手の気持ちを推測して気に入られるようにすること」という意味が一般化し、社会の空気を表現するために欠かせないことばになりました。現在でも、行政やビジネスなどの場で、何かというと「忖度」が話題になります。今後の国語辞典に、「忖度」の新しい意味は必ず載るでしょう。これほど大物の新語は、そうそう出現するものではありません。
さて、「ポスト忖度」とも表現すべき今回は、各選考委員の推薦することばもばらけていて、はたして結論が出せるのだろうかと、一同、気をもんでいました。
ところが、ベストテンが決まってみると、順当というか、選ばれるべきものが選ばれたという感じを持ちます。当初はベストテンの顔ぶれをイメージすることも難しかったのですが、ランクインしたことばのそれぞれを見ると、「今回はこれ以外にはない」と考えられるのは不思議なものです。
投稿内容に関して言えば、前回は「インスタ映え」「忖度」の投稿数が他の候補の数倍に達していました。今回は、そこまで圧倒的な支持が集中したことばはありませんでしたが、スポーツの国際大会に関連する流行語が投稿数の上位に来たのは特徴的でした。すなわち「(大迫(おおさこ))半端ない(って)」「そだね(ー)」で、投稿数の1位・2位を占めました。このことは私たちもある程度予想していました。この2語が入選しなかった理由は、選評の最後に触れます。
ちなみに、投稿数の3位は「エモい」でした。このことばは、すでに2016年にベストテンの2位に入選しているため、選考からは除外されました。ただ、前回まで投稿が少数だった「エモい」が、今回は急伸し、投稿数3位につけたことは特筆すべきです。「エモい」は少々早く選ばれすぎたのでしょうか。
投稿の集まり具合は、最初のうち、前回に比べて低調でした。これといったことばが思い浮かびにくい年だったせいもあるかもしれません。「このままでは盛り上がりに欠けてしまうのでは」と危ぶまれました。ツイッターの公式アカウントや、選考委員のアカウントなどで必死に(?)投稿を呼びかけたこともあってか、終盤には多くの投稿が集まり、結果的には、昨年の投稿総数2,452通に引けを取らない2,315通の投稿をいただくことができました。語数で見ると、前回の1,072語よりも多く、1,296語になっています(同じことばは1語と数える)。
今後とも、多くの方に投稿していただけるよう、工夫をしていくつもりです。