6. 災害のたびにことばが増える
9位 スーパー台風
『新明解国語辞典』編集部
スーパー たいふう57【スーパー台風・スーパー〈颱風】〔←super typhoon=米国の合同台風警報センターによる最大強度階級の台風〕 最大風速が毎秒約六五メートル〔=一三〇ノット〕以上の極めて強い台風。日本の気象庁の最大強度階級である「猛烈な(最大風速毎秒五四メートル)台風」を超える。
9位の「スーパー台風」は、学術用語としては以前からありました。私たちが普通に考える以上の猛烈な威力をふるう台風です。ただ、この台風のことを知ったのは最近になってから、という人も多いはずです。
2018年の台風の被害は特に甚大でした。関西空港が機能停止に陥った9月初めの21号、そして9月末から10月1日にかけて日本を縦断した24号と、超猛烈な台風が2回も襲来しました。「スーパー台風」の用語を多くの人が知った年でした。
外来語「スーパー」(超)は、「スーパーマン」「スーパーマーケット」など、優れたもの、便利なものに使われることが一般的でした。ところが、「スーパー台風」などの「スーパー」は、そうしたイメージからはかけ離れています。同様に「スーパー」のつく気象現象として、巨大な積乱雲の「スーパーセル」があります。竜巻の被害を引き起こす原因になり、日本でも近年、被害が出ています。
10位 ブラックアウト
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
ブラックアウト 〈名〉[blackout]①[夜間の]大規模な停電。また、そのことで混乱や不安が広がること。「大災害時の━」②報道規制、灯火管制、記憶障害など、一時的に働きが止まること。③[演劇などで]舞台が暗転すること。
10位の「ブラックアウト」は、9月の北海道地震の後、道内全域に起きた停電のニュースで一般に知られました。インフラや住民生活に重大な影響が及び、深刻な語感を伴って使われました。「ブラックアウト」は、英語では停電の意味ですが、日本語では、とりわけ大規模停電とその被害を指します。視界の暗転を指すこともあります。なお、雪や吹雪で視界が真っ白になる「ホワイトアウト」は、これにならって作られたことばです。
皇后さまは10月のお誕生日に際し、〈「バックウォーター」「走錨(そうびょう)」など、災害がなければ決して知ることのなかった語彙〉に言及されました。前者は西日本豪雨で川の決壊をもたらした現象、後者は台風21号で関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突した原因です。「スーパー台風」「ブラックアウト」にとどまらず、知っておくべき新しいことばが大規模災害のたびに増えるのは、やるせない気がします。
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投稿数の多かった「半端ないって」「そだねー」は、残念ながら「選外」でした。「半端ない」は、ワールドカップロシア大会での大迫(おおさこ)勇也選手の活躍を称えたことばですが、すでに三省堂の複数の国語辞典に載っています。ただし、「って」は、強い主張を表す終助詞の一用法として、選考会議で話題になりました。また、「そだね(ー)」は、ピョンチャン五輪でカーリング女子代表が使った北海道方言ですが、「そうだね」と同様、単純な連語で、辞書の項目には立ちません。両語とも、今年の雰囲気を表すことばとして記録しておきます。
その他、選考委員会では「潜伏キリシタン」(長崎と天草の集落などが世界文化遺産に認定)、「ご飯論法」(「朝のご飯は食べていませんよ、パンなら食べましたが」といったすりかえの論法)、「オリパラ」(「オリンピック・パラリンピック」の略称)などが話題になりました。