「今年の新語 2021」の選評

6. 新用法が付け加わる「おうち」

9位 おうち○○

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生(※第八版の語釈とは一部異なります)

お うち[一]おうち[お]「家い|う
え|ち
」の尊敬語・美化語。「―のかた〔=保護者のかた〕」
[二][造〉自宅での。「―カフェ・―時間・―居酒屋」〔二十一世紀になって広まった言い方で、二〇二〇年の新型コロナウイルス感染かん
せん
拡大に ともない、特に使う機会が増えた〕

 9位には「おうち○○」が入りました。「おうち」は「家」の美化語であり、従来と意味が大きく変わったわけではありません。「今年の新語」にランクインしたのは不思議に思われるかもしれません。

 ただ、使い方には変化が生じています。まず、21世紀に入り、「おうちカフェ」「おうちレシピ」など「おうち○○」の形で造語成分として使われることが多くなりました。従来なら「家庭○○」「自家製○○」など、漢語を使って表現したところを、柔らかく「おうち」と表現したものです。

 さらに2020年、コロナ禍で「ステイホーム」の呼びかけが広まると、「おうち時間」が流行語になりました。「外に出られなくても家で楽しもう」というポジティブな気持ちがこめられています。緊急事態宣言などの期間が長く続く中で、「おうち居酒屋」「おうちごはん」などの言い方も多くなりました。

 現在、雑誌を見ると、〈コロナ禍で大ブーム到来♪ うまい餃子を食べるおうち調理の極意〉〈どうする!? コロナ禍のおうちごはん〉のように、コロナ禍と「おうち○○」を関連させた表現によく出合います。「おうち○○」が従来にも増して日常語になったことが分かります。その状況を記録するため、9位に選びました。

10位 Z世代

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

ゼットせだい【Z世代】〈名〉一九九〇年代後半から二〇〇〇年代以降に出生した世代。生まれたときから、あたりまえのようにインターネット環境が整っていて、情報を得たり、価値観を形成する際のよりどころとするところに特徴がある。デジタルネイティブ。ジェネレーションZ。[もともと、一九六〇年代から七〇年代生まれをX世代、八〇年代から九〇年代生まれをY世代と呼んでいて、その次に位置する世代。みずから名乗る世代名として用いられる傾向がある]

 10位の「Z世代」は、生まれたときからインターネット環境があり、ごく自然にデジタルメディアに触れて育った1990年代後半以降の世代のことです。いわゆる「デジタルネイティブ」の世代です。なぜ「Z」かと言えば、その前に「X世代」「Y世代」があるからです。

 「X世代」は、カナダの作家クープランドの作品名に基づき、「得体の知れない新人類世代」を指した呼び名です。1960年代後半~70年代前半生まれに相当します。「Y世代」はその次の世代で、1990年代前半までに生まれた人々を指します。その次の世代だから「Z世代」というわけです。

 2021年に入り、唐突に「Z世代」だけが知られるようになりました。「X」「Y」の世代はさほど知られていないのに、「Z」だけが注目されています。その点を面白いと評価し、ランキングの最後に選びました。

 特定の世代の呼び名は、個別性が高く、小型国語辞典の項目にはそぐわないとも言えます。でも、「団塊の世代」「氷河期世代」などは小型辞典にも載っています。この先も長く使われ、よく聞く言い方となるなら、辞書にあってしかるべきでしょう。

*    *    *

 前回の「今年の新語2020」と同様、今回もコロナ禍の中での選定作業になりました。一過性の可能性がある、あまりにも「ベタ」なコロナ関連語などはランクインしませんでしたが、選に漏れたことばの中には興味深いものも多くありました。それらのうちいくつかを「選外」として記録しておきます。

選外

じゃないほう

「そうじゃないほう」の一部「じゃない」が、一種の形容詞として、「主要ではない」の意味を持つようになりました。漫才コンビなどで「じゃないほうの人」と言えば「目立たないほうの人」。秋にはドラマ「じゃない方の彼女」(テレビ東京系)も始まりました。

鼻マスク 

マスクをしたのはいいが、鼻だけが出ている状態です。「鼻マスク」と言えば鼻にマスクをしているかのようですが、実際は「鼻出しマスク」であるところが不思議です。「あごマスク」が「マスクをずらしてあごにかけた状態」であるのと対照的です。 

黙食 

つばが飛ぶのを避けて「黙って食事すること」の意味の漢字熟語です。2021年1月、福岡市のカレー店がSNS上に「黙食」のポスターを公開したところから一般化しました。銭湯では「黙浴」が使われるなど、関連語も生まれました。「黙示」「黙認」などと同様、以前からあったことばのように、つい錯覚します。

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