「今年の新語 2021」の選評

5. 変容した日常を映すことば

 6位の「ウェビナー」、7位の「ギグワーク」は、どちらもコロナ禍で変容した日常を映しています。

6位 ウェビナー

『新明解国語辞典』編集部

ウェビナー01〔webinar ← web+seminar〕インターネットを介して行なう講演会や研修会。また、そのためのアプリケーションなど。

 「ウェビナー」は、「ウェブ」と「セミナー」の合成語です。ウェブ会議システムを用いて講演や対談などの模様を配信し、チャットなどを使って質問なども受け付けるものです。コロナ禍で、会議や飲み会などもリモートで行うことが多くなりましたが、講演などのイベントもリモート形式が珍しくなくなりました。今後、こうしたコミュニケーションのスタイルはいっそう普及することでしょう。

 語構成に着目すると、「ウェビナー」(web+seminar)のように、ある語(の頭)と別の語(のお尻)を融合させたことばを「カバン語」と言います。スーツケースのふたと底を合わせるようにしてことばを造るからです。「今年の新語2020」の9位「グランピング」(glamorous+camping)などもカバン語です。近年、こうした語構成の外来語が多く日本語に入ってきているのは、注目すべき現象です。

7位 ギグワーク

『大辞林』編集部

ギグ ワーク3〖gig work〗インターネット経由で発注先から直接個人で請け負う単発の仕事。労働機会の拡大や人材活用、副業の促進などに資する反面、多く低賃金であることや、雇用契約がなく、トラブルに際しての補償のないことなどが問題視される。

 「ギグワーク」は「単発の仕事」ということです。単発といっても、その日一日だけ働くバイトなどとは違います。たとえば、飲食店からスマホのアプリを通じて宅配業務の依頼があったとき、都合がよければ請け負う、というような労働形態です。「ギグ」は本来、一夜かぎりのライブ演奏のこと。その場かぎりで気軽に演奏するように、自分のペースで仕事ができるところから「ギグワーク」の名がつきました。

 こうした働き方から生まれる「ギグエコノミー」は、コロナ禍以前から話題になっていました。コロナ時代に入り、宅配サービスへのニーズが急速に高まったことで、さらに注目されることになりました。

 縛られない働き方である一方、ギグワーカーの立場の弱さも指摘されます。今後「ギグワーク」がことばとして定着するかどうかは、労働者が十分に保護されるかどうかにかかっているでしょう。

8位 更問い

『大辞林』編集部

さら とい0
とひ
【更問い】記者会見などで、会見内容の不明な箇所をただしたり、関連する質問を発したりすること。また、その質問。「事前に通告した質問以外の―が禁じられていることに不満が噴出する」

 8位の「更問い」は、政治家などの記者会見の場で、回答が不十分だと感じた記者がさらに質問することです。「ぶら下がり」(移動中などに要人に行う取材)や「囲み取材」(対象者を囲む合同取材)などは、すでに載せている国語辞典もありますが、今後は「更問い」も載せるべきかもしれません。

 報道記者の用語かと思ったら、むしろ役所の隠語のようです。ある省庁では、会見で記者に「さらに問われた」場合はここまで答える、という想定問答があるといいます(『朝日新聞』2002年2月13日)。

 この「更問い」は、菅義偉氏が首相になってからよく耳にするようになりました。首相の会見は、記者ひとりにつき質問を1回までに制限し、「更問い」に答えないとして批判されました。後に菅氏は会見スタイルを修正したともいいますが、「更問い」禁止の是非はその後も議論されました。願わくは、記者会見が自由な雰囲気で行われ、「更問い」が死語にならないようにしてもらいたいものです。

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