「今年の新語 2022」の選評

6. 人格の変化を表現する「闇落ち」

9位 闇落ち

『新明解国語辞典』編集部

やみ おち0【闇落(ち)・闇《堕(ち)】―する (自サ)〔今まで道徳的品性を保っていた人が〕社会通念から外れる(外れた行いをするようになる)こと。 「彼は陰謀論を信じ込み、―してしまった」 [表記]「闇《墜(ち)」とも書く。

 9位の「闇落ち」は「闇堕ち」とも書きますが、ここでは常用漢字の音訓に従って「闇落ち」としておきます。善良な心を持った人が、何かのきっかけで邪悪な側に行ったり、怖い人になったりすることを言います。

 このことばも、発生は10年以上前にさかのぼります。ウェブサイト「同人用語の基礎知識」では、2005年の記事の中に、今の「闇落ち」と同じ意味の「黒化」が示されています。その同義語に、「暗黒化」「邪悪化」などと並んで「闇落ち」も挙げられています。当時、「闇落ち」はまだ一般的でなかったようです。

 あるいは、映画「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」(2005年)には〈フォースにバランスをもたらす者が闇に堕ちた〉という字幕があります。このシリーズも「闇落ち」の源流のひとつでしょうか。

 2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、明るくまっすぐだった北条義時が陰惨な人間に豹変したことも「闇落ち」と言われました。人格の変化を効果的に表現することばとして興味深く、9位に入れました。

10位 リスキリング

『大辞林』編集部

リスキリング30〖reskilling〗社会人が、ある職業に必要とされる技能の習得をあらためて行うこと。特に近年、別の職種に就く場合や同じ職種でもあらたな技能が必要とされる場合に、それらの技能を習得することを指していう語。

 10位の「リスキリング」は、スキルを再び習得すること。分かりやすく言えば「学び直し」です。特に、社会人が仕事上の必要によって、または他の職場や地位に移ろうとして学ぶ、という文脈で使われます。岸田首相は国会で、リスキリングなどの支援のため5年間で1兆円を投じるという趣旨を述べました。

 何歳になっても勉強することは素晴らしい。ただ、純粋な知識欲からというよりは、「今の職場では展望がないから」といった理由で、やむなく別の分野のことを学ぶ人もいるかと思うと、少々苦みも感じます。

 人ごとではありません。世の中のあらゆる分野で、従来の知識や手法が通用しにくくなっています。私たち「辞書を編む人」も、これからの時代にふさわしい、新しい辞書を作るために学ばなければならない。そんな自戒を込めて、このことばを10位に置きます。

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 このほか、例年どおり「選外」のことばを選びました。選評の冒頭で触れたリバイバルブームを象徴するものとして、2つのことばを記録しておきます。

選外

平成レトロ

元号が変わってすでに4年目となり、平成時代は懐かしいものになりました。平成元年は30年以上前で、歴史の領域に入っています。ガラケーや携帯型ゲームがレトロな関心を集めるのも分かります。

Y2K

「Y」はyear、「K」は1000を表します。要するに西暦2000年です。「Y2Kファッション」として、2000年頃のファッションが流行しています。親が昔着ていた服を子が着ることもあるとか。東京・原宿に行くと、ルーズソックスが「バズってる商品」として売られており、年代感覚がバグります。

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