「今年の新語 2022」の選評

3. みんなが楽しんでいる「○○構文」

2位 ○○構文

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

こうぶん【構文】〈名〉①文や句として成りたつように、単語などの要素を、文法的な決まりにしたがって、並べたもの。「━として成立させる・分詞━」 ②文章のひとまとまりを、ある方式によって作り上げたもの。「おじさん━・ご不快━」[用法]「おじさん━」とは、おじさんのメールなどにありがちな、多くの絵文字や、親しげな言いまわしをちりばめた、長ったらしいものを話題にするときに使う。「ご不快━」とは、相手が不快になったこと自体を謝罪するだけで、その原因となった自分のがわの非については何も述べない文章について言う。

 ここ2、3年、世の中に「○○構文」が増え始めました。いわく、「ちいかわ構文」「進次郎構文」「メフィラス構文」といった具合。文法用語の「構文」とは違い、ここでは「表現のスタイルやパターン」といったところでしょうか。人々がいろいろな表現を楽しんでいることを肯定的に捉え、2位に選びました。

 「○○構文」の代表は、何と言っても「おじさん構文」でしょう。「おじさん文章」とも言います。最初に注目されたのは2017年でした。4月、イラストレーターのすれみさんがツイッターに「オジサンになりきろう講座」を投稿し、おじさんの文章のタイプとして〈絵文字乱用〉〈顔文字乱用〉〈句読点(が多い)〉などを挙げました。投稿がバズった結果、ニュースサイトの配信番組でもおじさん風の文章が取り上げられました。

 「○○ちゃん❗ お早う(≧∀≦) 今日も学校かな^_^;」

 このように装飾過多の、ややなれなれしい文章を、女子高校生がおじさんになりきって使っているという説明でした。その後、このスタイルは「おじさん構文」として、2020年頃から特に話題になりました。

 もっとも、「○○構文」の例は10年以上前からありました。2011年発売のゲーム「エルシャダイ」のせりふをまねて「よし分かった、説明しよう」などと言うパターンが「エルシャダイ構文」と言われました。

 その後、さまざまな「○○構文」が登場しました。冒頭の「ちいかわ構文」は、ナガノさんの漫画『なんか小さくてかわいいやつ』(ちいかわ)に出てくる「それって……○○ってコト!?」などのせりふをまねたもの。「進次郎構文」は、政治家の小泉進次郎さん風の表現。「メフィラス構文」は2022年に現れた構文で、映画「シン・ウルトラマン」でメフィラス星人が言う「○○、私の好きな(苦手な)ことばです」を応用するものです。

 文法で言う「構文」は、すでに国語辞典に載っています。これは、ざっくり言えば「文(や文章)の成り立ち、または組み立て方」のことです。日本語の文は、「…が…に…を…する」といった枠組みに、正しい成分を組み込むことで成り立っています。こうした文全体の構造のことを「構文」と言います。

 一方、今回取り上げた「構文」は意味が違います。「おじさん構文」「ちいかわ構文」はむしろ「文体」(スタイル)、「進次郎構文」「メフィラス構文」はむしろ「表現の型」(パターン)と言うべきものです。それらを引っくるめた言い方がこれまでなかったため、「構文」の新しい用法が生まれたのでしょう。

 なお、コンピュータープログラミングの分野にも「構文」があります。たとえば「if構文」は、ある条件がyesならばこの処理、noならばこの処理、というように記述する形式です。今回取り上げた「○○構文」は、あるいは文法よりもプログラミングに関心のある人が考えた表現かもしれません。

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