「今年の新語 2022」の選評

4. 時代の気分を表す?「きまず」

3位 きまず

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

き まず気まず-ま
⦅感⦆〔←「気まずい」の語幹〕〔俗〕とまどうなあ。「『ライブ会場で会おうね』『―』」〔二〇二〇年代になって注目された ことば。それほど気まずくない場合にも使う〕

 3位の「きまず」は、形容詞「気まずい」の語幹を感動詞として使ったものです。「気まずい」自体は昔からあることばですが、若い世代が、大して気まずくなくてもよく使うようになりました。

 たとえば、SNSで友だちのネイルの写真を褒めたら、「もう新しいネイルにした」と言われた。思わず「あ、きまず……」。本当に気まずければ沈黙するところですが、あえてことばに出すところが新しい。

 2000年代の「萌え」、2010年代の「エモい」、古くは1980年代の「かわいい」など、ある気分を表すことばが多くの人の口癖になることがあります。その時代の気分を表しているからでしょう。「きまず」も、場の空気を読もうとする時代の気分を表す面があると考えて、3位に選びました。

 なお、「きまず」を変形させた「きまZ(きまゼット)」も2021年頃に広まりました。ただ、これは「あまり聞かない」という女子高校生の証言も得ています。グループによるのかもしれません。

4位 メタバース

『大辞林』編集部

メタバース3〖metaverse〗 ネットワーク上に構築される、三次元グラフィックの仮想空間。利用者はアバターを操作し、仮想空間に参加する。

 4位の「メタバース」。仮想空間の中に入り込み、他人と会話したり買い物をしたりできるサービスとして、2021~22年に知名度が上がりました。メタ社(旧フェイスブック社)が参入したことがきっかけです。

 「メタ」とは「より高い次元の」の意味です。たとえば「花が咲く」は普通の言語表現ですが、「『花が咲く』は主語と述語から成る文だ」と言えば、これは実際の言語を一段高い所から説明した「メタ言語表現」になります。「メタバース」も、「ユニバース」(世界)より高次の世界を構築したという発想から名づけられています。

 この「メタバース」は、実は今回の投稿数では1位でした。未来を感じさせることばですが、現時点ではまだ未体験者も多いため、やや慎重に4位としました。メタバースのサービス自体は20年ほど前からあり、デジタル版『大辞林』もすでに項目を立てています。ただ、新しい状況を踏まえて記述を見直す必要はあるでしょう。

5位 ○○くない

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

く ない ⦅終助⦆〔←形容詞連用形をつくる接尾せつ
語「く」+形容詞「ない」〕〔俗〕同意を求める気持ちをあらわす ことば。でしょう。くないか。くね。「だれでも できる―?・もう勝った―?」[丁寧]くないですか。〔二十一世紀のゼロ年代に報告があり、二〇一〇年代に広まった ことば。二〇年代には「ありそうく見える」「できるくなった」など、「く」に肯定こう
てい
表現が続く形も注目されるようになった〕

 5位の「○○くない」は、日常の話しことばを大きく変える可能性のあることばです。21世紀のゼロ年代に、関西や福岡市などで若い人が「できるんじゃない?」を「できるくない?」などと言うことが報告されました。「行ったんじゃない?」は「行ったくない?」、「事実じゃない?」は「事実くない?」です。

 この「くない」は、「赤くない」「美しくない」などの後半部分が独立して終助詞のようになったもので、相手に同意を求めることを表します。2010年代には、この「○○くない?」が全国の幅広い層に浸透しました。

 さらに、2022年の今は、「○○くない?」だけでなく、「く」を使ったさまざまな言い方が現れています。「できるようになった」を「できるくなった」、「清楚になった」を「清楚くなった」、「ありそうに見える」を「ありそうく見える」など、「く」は大活躍です。「○○くない?」が最初に報告されてから年月が経ってはいますが、「く」がさらに用法の発展を見せている状況を踏まえて、「○○くない」を5位に選びました。 

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