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インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生

2009年 4月 17日 金曜日 筆者: ogm
【編集部から】

 いま書店では、小学生向け辞書のコーナーが活況を呈しています。辞書を編集する側としてはとてもうれしいニュース。しかも、一時のブームではなく、徐々に広がっています。
 学校だけでなくご家庭でもできる実践だからこそかもしれません。三省堂では、この取り組みを皆さんにも知っていただきたいと、「辞書引き学習法」の提唱者である立命館小学校校長・深谷圭助先生に直接教えていただける体験会を、書店の皆さんと考えました(⇒深谷圭助先生の「辞書引き学習体験会」のご紹介)。
 当日は予想以上の大盛況。子どもたちの目が輝いていく、それを見た親御さんの目が光っていく、それを見てわたしたち編集部の目尻が下がっていく……魔法にかかったような時間を過ごし、「これはたくさんの方に知っていただきたい」とあらためて実感いたしました。
 ただ辞書を与えるだけでは、子どもたちはどうやってそれを使っていけばいいかわかりません。大人たちが知っておきたいいくつかのコツと心がまえがあるようです。この機会を逃した方、遠方の方にもぜひ知っていただきたいという想いから、深谷先生にインタビューさせていただき、ウェブサイトに掲載することにしました。

メモ:辞書引き学習法とは
小学1年生から自分の辞書を持ち、生活のさまざまな場面で辞書を引くことをすすめる学習法。国語科の時間だけでなく、他教科の授業時間も、給食の時間も、家のリビングでも……。
引いたページには付箋をし、引いた項目をメモする。付箋にはあらかじめ通し番号をふっておき、自分がどのくらい辞書を引いたか実感できるようにする。深谷先生の著書『小学校1年で国語辞典を使えるようにする30の方法』(明治図書)、『7歳から「辞書」を引いて頭をきたえる』(すばる舎)によって、教育関係者や保護者の間に広まった。

辞書は知への扉 さまざまな世界への入り口を自分の手もとに――
深谷圭助先生インタビュー

「辞書引き学習」を始めたきっかけ

――先生の取り組みが幅広く保護者・教育界・出版界の注目を集めています。子どもたちへの指導法はさまざまありますが、この付箋を活用した辞書引き指導を選び、これまで取り組んでいらっしゃった、そのきっかけというのはどんなことだったのでしょうか。

深谷先生 辞書を小学生、しかも小学1年生に使わせようと考えたのは、愛知県の刈谷市立亀城小学校で教えていたときです。
 子どもが本当に夢中になって取り組み、かつ確かな力、何か壁にぶつかっても自分で乗り越えていく力をつける教材は何だろうと考えていたときに、国語辞典に出会いました。そして、小学1・2・3年生の教室で取り入れ始めました。始めてみると、小学1年生のほうが辞書をどんどん引くようになる。そのうちに、何でもまず自分で辞書を調べるというふうになって、これは効果がある、と。

――取り組みを始めた当初、どのような状況だったのでしょうか。

深谷先生 はじめは家にある辞書をどれでもいいから持ってくるようにと言ったんです。そうしたら、「とっても大事なものだ」と言っておばあちゃんが持たせてくれたという、40年前のものを持ってくるような子がいたんですね。
 古いだけでなく、難しい漢字ばかりで読めない。子どもにとっては使いにくいことこのうえないもので……これでは子どもたちが入り口でつまずいてしまうと思い、保護者の方に辞書を買っていただくように文書を出したんです。子どもが読めるように、総ルビの新しいものを、と。

辞書を自分のものにしていく子どもたち

――そのとき保護者の皆さんの反応はいかがでしたか。

深谷先生 決して皆さんが大賛成というわけではありませんでした。字を書くのもおぼつかないのに、辞書なんてまだまだ早いという声もありました。半信半疑だったのかもしれないのですが、そのうち、子どもたちの変わっていく様子を見て、保護者の方たちも変わっていきました。

――子どもたちの様子はどのように変わっていったのでしょうか。

深谷先生 子どもたちは、知っていることば、目に入ってきたことばをとにかく辞書で引いていくんですね。自分の知っているものが辞書にあるか、徹底的に調べる。大人からしたら、辞書というのは、わからないことばがあるときに使うものだと思いがちなのですが、子どもたちはわかっていることばから調べるんですね。そして自分の実感と合うか合わないか、合わないなら自分の側に問題があるのか、辞書の側に問題があるのか、違う資料ではどうか、今度は友だちの辞書や家から図鑑を持ってきて調べだす。それを苦とも思わないんです。
 そうやって調べている様子をまずほめる、そうすると子どもたちはさらに意欲的に調べるようになる。そのうちに何か気になることが出てくるんですね。ある植物のことが気になる。国語辞典で調べてみたけれど、何か物足りない。図鑑で調べてみる、植物園に行ってみる、植物園の係の人に聞いてみる……というふうに、気になったことを追究するようになる。そこでまた、「君は○○の博士だね」というふうにほめると、自分に自信を持つようになる。
 この過程で、たとえば植物園の人に問い合わせるときにはどのようなことばづかいをしたらいいか、手紙はどのように書いたらいいかなども教えることができます。辞書を引くこともそうですが、生活と離れたところでことばの学習をするのではなく、必要に応じてことばの学習を体験しながらできる。
 辞書引き学習から出発して、体験に結びついたことばの学習ができ、またその追究が、自分で課題を見つけ、それに対して解決する手段を考える力につながっていくんです。

付箋を活用するメリット

――うかがっていますとなるほど、と思うのですが、やはり一般には、辞書を小学1年生から使うのは難しいのではないかと思われていると思うのですが、具体的にどのような指導をなさっているのか、少し教えていただけないでしょうか。

深谷先生 そこが付箋を活用するポイントです。「これだけ調べた」というのを目に見える形にすることで、子どもたちの自信になります。教室では、はじめこちらが用意した付箋を使うようにしますが、その後は子どもたちに任せています。ご家庭で実践する場合、低学年のうちは字の大きさも筆圧も安定しませんので、幅が25mmくらいある付箋を用意すると書きやすくていいでしょう。

――そうすると、子どもたちは付箋の数を競うようになったりしませんか。

深谷先生 ご家庭では、はじめはいっしょに辞書に書かれている内容を確認するといいかもしれません。辞書に親しむうちに、子どもたちは自分から辞書の内容を読むようになります。
 教室では、もちろん、付箋の数を競わせるということが目的ではなく、どれくらい引いたかが、どれくらい辞書に親しんだかの目安になり、また子ども自身の達成感につながるので、10・50・100・200・300……1000枚に達成した日を記入するプリントをつくることもあります。100枚を超えるころには、辞書への抵抗がなくなり、500枚を超えると、子どもによっては探したいことばを実にスムーズに引けるようになります。このころになると、子どもたちの関心の対象が「辞書の内容」へと移っていきます。

――だいたいどれくらいの期間でどれくらい引くようになるのですか。

深谷先生 もちろん子どもによって違いますが、半年くらいで2000~3000枚の付箋がつく子もいます。

1冊目の辞書が付箋でいっぱいになったら…

――わたしたち編集部が立命館小を見学したときは、秋の終わりごろでしたが、すでに1年生でも、付箋で辞書がふくれあがっていました。どんどん引くようになると、付箋はどんどん付けられ、辞書がますます厚くなっていくと思うのですが、そうなったとき同じものを買い替えるのか、それとも2冊目に何か別のものを用意するのかということが、気になるところです。

深谷先生 ほかの子の使っている辞書を見てうらやましくなって、2冊目の辞書として友だちと同じ辞書を買ってほしいと保護者の方に言う子もいれば、もっと大人向けの辞書を求める子もいます。専門的なことを調べるようになると、図鑑なども持ち込むようになります。
 誕生日などのプレゼントにお子さんのほうから「辞書を欲しい」と言うようになると、お父さんお母さんのほうでもむしろ非常に喜んで辞書を買ってくださる傾向があるようです。

――立命館小学校では、子どもたちがいろいろな国語辞典を使っていました。また、「辞書引き学習体験会」の際、先生は、学校と家庭で別の辞書を使うことを提案なさっていましたが、複数の辞典をすすめる理由はどんなところにあるのでしょうか。

深谷先生 いろいろな辞書に触れることで…… ⇒この続きは来週掲載いたします。

《後編》の目次
  ■辞書や資料はさまざまなものを
  ■さまざまな知への入り口となる辞書
  ■自らの道を切り拓いていく子どもたちに
  ■子どものころは、まず、紙の辞書を
  ■大人にとっても辞書は良きパートナー

【プロフィール】

深谷圭助(ふかや・けいすけ)
1965年生まれ。愛知教育大学卒業。名古屋大学大学院博士後期課程修了。博士(教育学)。
1989年愛知県刈谷市立亀城小学校に着任。国語辞典を学校生活のさまざまな場面で取り入れることで、児童が主体的に学ぶ指導法(辞書引き学習)を展開。この実践を『小学校1年で国語辞典を使えるようにする30の方法』(明治図書)にまとめ、教育界の注目の的に。
2005年立命館小学校の設置メンバーとなり、06年4月から同校教頭、08年4月には校長に就任。辞書引き学習の普及にと、校内だけでなく全国各地を飛び回りながら、学習法のさらなる向上のため研究活動に没頭する毎日。
おもな著書に『7歳から「辞書」を引いて頭をきたえる』(すばる舎)、『辞典・資料がよくわかる事典―読んでおもしろい もっと楽しくなる調べ方のコツ』(PHP研究所)、「辞書引き学習自学ドリル」シリーズ(MCプレス)などがある。

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【編集部からのお知らせ】

「辞書引き学習」基本のステップは五つ! 今すぐ始めたい方はこちらをご覧ください。
 ⇒「辞書引き学習」とは(監修:深谷圭助)
 「やってみよう!」 「辞書引き学習」への取り組み―先生方・保護者の方へ―

最新のイベント情報は右にあります「おすすめ記事」からご覧ください。今後のイベント情報、また、これまでの報告など関連情報は以下からもご覧いただけます。
 ⇒辞書引き学習についての情報

三省堂では、書店さんといっしょに「辞書引き学習」の体験会を考えました。活動のもようは以下をご覧くださいませ。
 ⇒深谷圭助先生の「辞書引き学習体験会」のご紹介

編集部で立命館小へうかがいました。以下に訪問記を掲載しています。
 ⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記1
 ⇒「辞書引き学習」の立命館小訪問記2

★深谷先生から推薦をいただいております

例解小学国語辞典 第四版
編者:田近洵一
B6判 1,216ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13821-3
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13822-0

 

例解小学漢字辞典 第三版 新装版
編者:林 四郎(主幹)・大村はま
B6判 1,152ページ 1,995(本体1,900)円 ISBN 978-4-385-13817-6
[ワイド版] A5判 2,205(本体2,100)円 ISBN 978-4-385-13818-3

 

★立命館小学校で使われています

クラウン学習国語百科辞典
監修:金田一春彦 編者:三省堂編修所
A5判 1,200ページ 3,990(本体3,800)円
ISBN 978-4-385-15048-2

 

2009年 4月 17日