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第55回【信頼回復】しんらいかいふく

筆者:
2024年3月25日

[意味]

【信頼】
ある人や物を高く評価して、すべて任せられるという気持ちをいだくこと。

【回復】
①一度悪い状態になったものが、元の状態になること。②一度失ったものを取り戻すこと。

(大辞林第四版から)

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「先頭に立って国民の信頼回復に全力を尽くす」(岸田文雄首相の年頭所感から)。自民党派閥による裏金問題、企業の不正など2024年も年初から「信頼回復」が新聞紙面に頻繁に現れています。新聞記事データベース「日経テレコン」で調べたところ、日本経済新聞朝夕刊で2月末までに「信頼回復」が登場した記事は52件で、うち7割超の38件が国内政治に関するものでした。

そもそも「信頼回復」は故事由来の四字熟語ではありません。常用漢字表の改定以降に刊行・改訂された主な国語辞典16種を見ても項目は皆無。「信頼」と「回復」の2語から成り、意味も単に「信頼を回復すること」。特徴といえば、特に政治関係で多く見られ、よく使われるのは不祥事が発覚したときで、信頼が回復したような場面ではまず用いられないといったところでしょうか。

「信頼回復」の出現記事件数を示したグラフでは、2002年(448件)と2007年(470件)に大きな山があります。2002年は原子力発電所のトラブル隠しや食品の産地偽装が問題になり、2007年は年金記録漏れ、食品の賞味期限改ざんなどがありました。それなりの年月がたっているとはいえ、記憶に新しい出来事のように思えます。

裏金問題については、もともと「信頼」がなかったのだから「回復」なんて言うのもおこがましいなどといった厳しい声も聞こえてきます。どんなことであれ信頼なくしては私たちの生活は成り立ちません。「信頼回復」よりも、まずは「信頼構築」することが大事なはずです。

※2024年は2月まで

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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