ここ数回(第31回,第32回,第36回,第37回,第39回,他)で観光の方言メッセージについてお話ししています。
そのなかで私の回では,構成方式つまり『型』の観点から分類して見ていっています。
第31回では,「いらっしゃいませ」もしくは「いらっしゃいました」の意の方言と,「地名」または「地名+『-へ』の方言」で構成されるメッセージを,『基本型』だと紹介しました。全国至る所で見ることができます。私どもで記録した例はおびただしい数にのぼっています。
第36回では,第32回でも紹介された,観光の方言メッセージの原型「おいでませ山口へ」による各地の『基本型』について考えてみました。
復習のため今回も例を示しましょう。岩手県のJR盛岡駅新幹線コンコースの歓迎メッセージ【写真1】は,典型的な例ですね。また,あねっこバスガイドの前掛け「よぐおでんすた」(岩手県盛岡市,「お」は手で隠れています)【写真2】は使い方のおもしろい例です。
今回は,第36回で予告したとおり,観光の方言メッセージの“他の構成型”について考えます。
『基本型』以外の,“他の構成型”には大きく分けて二つの種類があります。
一つは,基本型をもとに,「他の内容」が多く加えられたものです。『応用型』と呼びましょう。「よぐ来たなはん ついでに、あちこちよく見でくなんせ」(よくいらっしゃいました。この機会にあちこちよく見てくださいな,掲示場所:岩手県JR盛岡駅新幹線コンコース)【写真3】などです。この例では「ついでに」以降の部分が,多く加えられた「他の内容」です。
今一つは,「いらっしゃい」と「地名」による『基本型』とは根本的な組み立てが異なるものです。『発展型』と呼びましょう。「いってっみんべー」(行ってみよう,発信元:山形県天童市,掲示場所:山形県山形市山寺駅)【写真4】,「温泉さ入つて心も体もぬぐだまつぺえす」(温泉に入って心も体も温まりましょう,掲示場所:岩手県JR宮古駅,現地発音は[オンセンサ ヘァーッテ コゴロモ カラダモ ヌグダマッペァース])【写真5】などです。
こう見てきますと,メッセージの『型』と目的は関連していることが判ります。『基本型』と『応用型』は,観光客の誘致と歓迎のどちらにも使っていますね。「いらっしゃいませ」の意のことばが両方に使えるからですね。掲示地点が,発信元から離れた地点なら誘致,発信元の現地なら歓迎になります。
それに対して,『発展型』は勧誘また宣伝の目的になるようです。
それと,「温泉さ…」の例は,第31回でお話しした《方向》の点で珍しいものです。この掲示は,先のとおりJR宮古駅にあり,発信元は,掲示地点の岩手県宮古市にある旅行業者です。宮古市は,陸中海岸国立公園の中心地ですが,この掲示は,そこを訪れた観光客への歓迎メッセージではありません。ここが珍しいところです。JR宮古駅を利用する《地域住民に向けたメッセージ》で,東日本や北海道各地の温泉地への旅行を勧誘しているのです。それを,宮古の方言で表現しています。