「暖かい」の方言コマーシャル
方言の経済的な価値を考えるとしたら、テレビコマーシャルの方言活用が面白いテーマです。
古い話ですが、「チカレタビー」が1975(昭和50)年の流行語になりました。中外製薬の栄養剤グロンサンのコマーシャルで、日本各地の「疲れた」という方言をシリーズにしたのですが、秋田県花輪のが面白いと、評判になりました。収録のときに、地元の人に何度も演じてもらいましたがうまく行かなかったそうです。スタッフがふざけてまねて演じたのが取り上げられたもので、いわばにせものの方言でした。
本物の秋田弁なら「ツカレタベー」と聞こえるのですが、母音の違いを強調して「チカレタビー(B)」に近く発音しました。流行すると増殖現象が起こって、「チカレタシー(C)」も登場して、〈疲れが激しい〉意味で使われました。
ちょうどそのころが方言の復権の時期でした。1980年代にもときどき方言のコマーシャルがありました。その貴重な実例を、音源()でお聞かせしましょう。マークをクリックして、どうぞ。これは本や雑誌ではできない芸当です。
1986年ころの録音です。文字化すると次のような文章です。単語と発音に気を付けると、どこの方言かが分かります。その直前に各地の教育委員会に手紙を出して「暖かい」の全国地図を作りましたが、その実例が一本のコマーシャルで聞けました。家で寝ころんでも聞けるわけですから、いい時代になったものだと、感無量でした。
日本中のかたこりさん、ハリックスゴーゴーにあったかーい温感タイプが出ましたー。
あったかいがねー(愛知)
のごいすな (青森)
ぬくいわ (京都)
ぬっかー (鹿児島)ハリックスゴーゴーは血行をよくし、あったかーい貼りごこちで、肩こり腰痛などをやわらげます。(後略)
アクセントのアッパーライン(ルビによる上線)
ところで上の文字化では、アクセントの高いところをアッパーラインで示しました。これはインターネットならではの方法ですが、ワープロソフトでも示すことができる「秘法」があります。
昔は、縦書きでアクセントを示すには、高いところに傍線を引いていました。ところがこれを横書きにすると、ワープロの文書では下線になってしまいます。アクセントの高いところを示すには、従来の慣習どおり、上線(アッパーライン)を使いたいところです。
雑誌『日本語学』の連載で、〈ワープロソフトの「一太郎」ではアッパーラインを引けるが、ワープロソフトの「ワード」では引けない〉と書きました。その後NHK放送文化研究所のSさんからメールがあって、〈「ワード」でもルビを使えば上線を引ける〉と教わりました(明治書院『日本語学』2009年3月号、4月号〈ことばの散歩道〉130、131)。なるほどそのとおりでした。下に実例をあげましょう。
【「ワード2007」の振り仮名機能を使うには】
【「ワード2000」などの振り仮名機能を使うには】
ワープロソフトのルビ(振り仮名)機能を使うには、上のようにアッパーラインを付ける文字を指定したあと、「ワード2007」なら[ホーム]のをクリックしてください。「ワード2000」「ワード2003」などでは[書式]から[拡張書式]のなかにある[ルビ]を選択してください。下のような画面が出ますから、1文字につき横線(ダッシュ「―」)2本をルビとして設定すると、ちゃんとアクセントのための上線になります。
共通語(東京)アクセントでは、どこから低くなるかが重要です。そして最初の1拍はふつう低く発音されます。しかし全国の方言が共通語と同じ規則性を持つわけではありませんから、実際にどこが高く発音されるかを、線で忠実に示すほうがいいでしょう。少し高いとか大変高いとかを、点線や太線を使って区別することもできます。
「秘法」をインターネットで公開したら秘法でなくなりますが、お役には立ちます。楽しいだけでなく実用として役立つ文を、これからも心掛けます。
ワードによるアッパーラインの引き方が、以上の説明で分からなかった方は、まずヘルプ機能を活用して、ルビ(振り仮名)の付け方を、練習してください。そのあと、ルビ(振り仮名)の文字の代わりに線を入れてみてください。
なお今回の稿については、三省堂編集部の荻野(真友子)さんに大いにご助力をいただきました。御礼申し上げます。