このほど“日本最後の清流”として知られる高知県の四万十川に出かけ、四万十市内にある博物館「あきついお」を訪ねました。
「あきついお」とは……? ちょっと変わった名前ですが、実は、「あきつ」と「いお」からなり、四万十川流域を中心とした、昆虫のトンボと、川魚とを集めた学習・観光施設です。
「あきついお(四万十川学遊館)」という名前と表記からもわかりますが、楽しく遊びながらしっかり学んでもらいたいという思いが込められています。
設立者は「社団法人・トンボと自然を考える会」です。四万十川流域には約90種のトンボと、約200種の魚がいるということですが、「あきついお」には日本はもとより、海外まで含めてトンボの標本1000種、3000点、魚300種、2000点が展示されています。
トンボのことを、日本では古くは「あきづ」(蜻蛉、秋津)、のちに「あきつ」(中古以降)と言ったことが知られています。
トンボを意味する方言は、『日本方言大辞典』(徳川宗賢ほか編、小学館、平成元年=これまでに全国各地で発行された方言集や方言辞典、およそ1000冊を集大成し、約20万語もの方言での言い方を収録した、日本で最大の方言辞典)によると、全国でこれまでに知られているだけでも、実に189種類にものぼります。
この辞典をベースにして、共通語形から引けるようにしたのが『標準語引き 日本方言辞典』(佐藤亮一監修、小学館、平成16年)ですが、同書によると、トンボのことを「あきつ、あけず」などと言う(言った)地域は、主に北の東北地方と、遠く離れた南の九州・沖縄です。「ゐなかには、いにしへの言の残れること多し」(本居宣長『玉勝間』)と言われる、その例のひとつです。
国立国語研究所編『日本言語地図』(全6巻)にもこの項目があり、その一般向けの簡略版ともいうべき『日本の方言地図』(徳川宗賢、中公新書)にも全国の分布図と解説があります。
インターネットの「Web水族館 全国水族館ガイド」には「高知県の言葉で「あきつ」はトンボ、「いお」は魚で、「あきついお」の名称となっている」とありますが、『高知県方言辞典』(土居重俊)には、「いお」(=魚)はありますが、「あきつ」は見られません。
そうなると、館名の「あきついお」は、古語+方言と見るべきでしょうか。
なお、同様の命名をしたのが、鹿児島市にある「いおワールド かごしま水族館」です。魚を意味する「いお」と、その多様な世界=「ワールド」を見てもらおうと名づけられたものです。
《参考》高知県四万十市の「あきついお」はhttp://www.gakuyukan.com/、鹿児島市の「いおワールド」はhttp://www.ioworld.jp/ の、各ホームページを参照。
写真提供:「あきついお」、「いおワールド」