「今年の新語 2020」の選評

4. 「密」「リモート」にも新用法

3位 密

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

みつ【密】〈名・形動〉①ぎっしりとすきまなく つまっていること。「人口が━な地域」《対》疎・粗 ②人と人との間隔かん
かく
が、危険に思えるほど狭せま
く閉じられていること。「三━・この会議室は、ちょっと━です」③くわしく、細部に注意すること。「━なプラン」④関係が深く、つながりが強いこと。「連絡れん
らく
を━にする」⑤こっそりとするようす。「はかりごとは━(なる)をもって よしとする」
[②は、二〇二〇年の新型コロナウイルスの感染拡大の注意をうながすために、①から限定的にうまれた用法。「三密」とは、「密集、密接、密閉」をいう]

4位 リモート

『新明解国語辞典』編集部

リモート20〔remote=場所などが遠く隔たった・辺鄙な〕(遠く)隔たった別の場所で、通信回線を通して、仕事や学習、また、その他の様ざまな活動を行なうこと。「━で勤務する/━で飲み会に参加する/━会議・━ミーティング・━帰省」

 3位の「」、4位の「リモート」も、コロナ禍をきっかけに新しい用法が生まれたことばです。この先、コロナ時代が終わっても、こうした新しい用法は残ると考えて、ランキング上位に選びました。

 「密」は、前述のように「3つの『密』(=3密。密閉・密集・密接)を避けましょう」という形で呼びかけられました。このことばを特に広めたのは小池百合子東京都知事でした。4月、集まった記者たちに「密です」と間隔を空けるよう促した発言が流行語になりました。都知事が密な集団を解散させるゲームまで現れました。

 従来の辞書にも「密」は載っています。ただ、それは硬い文章語であり、「人口が密な国」「密に連絡を取りあう」のような文脈で使うものでした。ところが、コロナ禍で、「感染防止のため密を避けよう」などと誰もが言うようになり、「密」は口頭語の性格もあわせ持つようになりました。

 「密」には「避けるべきもの」という語感も生まれました。これまで、満員電車や混雑した観光地は「すごい人混み」「とても混んでいる」などと表現されました。一方、「この電車(観光地)は密だ」と言うと、「もっと余裕が必要だ」というニュアンスが出ます。「密」の一語によって、混雑解消の議論が進むかもしれません。

 「リモート」は、『大辞林 第四版』によれば、もともと〈他の語の上に付いて、「遠隔」の意を表す〉という意味しかありませんでした。ところが、コロナ禍によって様子が変わりました。

 密を避けるため、仕事や会合などは、ネットを通じて遠隔で行うことが多くなりました。「テレワーク」(前述)とほぼ同義の「リモートワーク」のほか、「リモート会議」「リモート授業」「リモート飲み会」などが広まり、「リモート」と略されました。「午後からリモートだから」のように名詞として使われています。

 意味の重なる「オンライン」もよく使われますが、「リモート」は「リモ映え(リモート映え)するメイク」「リモ飲み」のように略されるなど、より生活に密着した感じがあります。コロナが収束した後も、「リモート」は新しいコミュニケーション手段を表す日常語として使われ続けるのではないでしょうか。

5位 マンスプレイニング

『大辞林』編集部

マンスプレイニング5〖mansplaining〗〔man(男性) + explain(説明する)からの造語〕男性が女性や年少者に対して、見下した態度で説明すること。

 5位の「マンスプレイニング」は、特にネット上で知られるようになった概念語です。man(男性)とexplain(説明する)の合成語mansplainの名詞形。男性が相手の女性や年少者を無知だと決めつけて、偉そうに講釈を垂れることです。「自分のほうが物事を分かっている」と根拠もなく威張る男性は少なくありません。無自覚なまま男尊女卑的な言動を行うことに警鐘を鳴らすことばとして、ランキングに入りました。

 ちなみに、英語のmansplainも、21世紀になって広まった新語です。日本語では、2020年に新聞記事に初めて現れるなど、使われる機会が多くなりました。有名ユーチューバーも「(このことばを)最近知った」と、6月に新聞に答えています。新しいことばが広まることで、問題のある行為が抑制される効果も期待できます。

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