6. 新しいアウトドア「グランピング」
9位 グランピング
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
グランピング(名)〔glamping←glamorous+camping〕大きなテントなど、高級感のある施設(シセツ)で過ごす、ぜいたくなキャンプ。〔二〇一〇年代後半から流行〕
9位の「グランピング」は、2010年代後半から人気が出た贅沢なキャンプです。現地に豪華なテントなどが用意されていて、手ぶらで行っても楽しめます。語源はglamorous(魅力的な)とcamping(キャンプ)を組み合わせたもので、2つの語の頭とお尻を組み合わせた形。5位の「マンスプレイニング」と同様の造語法です。
過去の「今年の新語」の選考委員会でも、何度かベスト10入りが検討されました。でも、数あるレジャーのうちのひとつをあえて取り上げる理由が乏しいため、これまでランクインすることはありませんでした。
ところが、コロナ禍の中にあって、「ソロキャンプ」(=ひとりで行くキャンプ)など、他人との接触を避けやすい野外活動に関心が集まりました。グランピングもまた、独立したテントに宿泊すれば、感染防止を図りながら楽しむことができるとして、人気が高まっています。コロナ時代以降のアウトドアの楽しみ方を象徴することばとして、ベスト10に入りました。
10位 チバニアン
『大辞林』編集部
チバニアン 2〖Chibanian〗更新世中期の地質時代の名称。約77万4千年前から12万9千年前までの期間。この時代に最後の地磁気逆転現象が起きた。〔「千葉時代」の意。千葉県市原市の養老川沿いの地層が時代の境界と特徴を最も良く観察できることから千葉に由来する名称として提案され、2020年に国際地質科学連合(IUGS)において承認された〕
10位の「チバニアン」は、憂鬱なニュースが多い中で、うれしさを味わわせてくれた新語のひとつです。千葉県市原市で見つかった約77万年前の地層が、2020年1月、地質時代の境界を示す「国際標準模式地」に登録されました。その地層の時代、すなわち更新世(=氷期の繰り返された時代)のうち一時期を「チバニアン」(ラテン語で「千葉時代」)と呼ぶことが正式に決まりました。日本の地名が地質時代の名前になったわけです。
選考委員会では「『今年の新語』としては専門的すぎるのではないか」という意見も出ました。たしかに、小型辞典には載せにくい専門用語とも言えます。でも、日本の県の名前が、約46億年に及ぶ地球の歴史の一時期、それも実に約65万年に及ぶ時期の名前を表すことになったというのは、なんとも壮大な話です。
ある意味では、地球にとって一番大事な日本語は「チバ」であるとも言えます。とすれば、少なくとも、大型辞典である『大辞林』にはぜひ載せるべきことばなので、ランクインすることになりました。
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以上で「今年の新語2020」ベスト10の選評は終わりです。冒頭に述べたように、今回はこのほか、「コロナ枠」を設けています。必ずしも今後辞書に載るとは限らないけれども、コロナ禍に見舞われた2020年を象徴する6つのことばを記録しておきます。
これらのことばを使う必要がない日常が、一日も早く戻ってきますように。
選外(コロナ枠)
ソーシャルディスタンス
社会的距離。ウイルス感染防止のために必要な人と人との距離です。3月頃、海外メディアから「ソーシャルディスタンシング」(=社会的距離を取ること)の形で伝わりました。「社会的」はおかしいと「フィジカルディスタンス」(=身体的距離)という用語も提案されましたが、定着していません。
ステイホーム
ウイルス感染を避けて家にいること。3月、ジョンソン英首相は国民に“You must stay at home.”と呼びかけました(イギリス英語ではstay at homeが普通)。日本では4月に小池東京都知事が「ステイホーム週間」を呼びかけ、「ステイホーム」の標語が広まりました。
クラスター
感染者の集団。また、集団感染の意味でも使います。2月に政府の感染症対策本部が公表した「基本方針」の中で〈クラスター(集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防止することが極めて重要〉と記され、一般にもよく使われるようになりました。
アマビエ
肥後国の海中に住む妖怪で、疫病の流行を予言して「私の姿の絵をみんなに見せなさい」と警告したといいます。3月上旬、ツイッターで、アマビエの姿が描かれた瓦版(京都大学附属図書館蔵)などが拡散されて話題に。コロナ禍に苦しむ人々にとってマスコット的存在になりました。
ロックダウン
都市封鎖。感染拡大を防ぐため、海外では1月に中国・武漢市が封鎖されたのを皮切りに、ヨーロッパなどの多くの国や地域で封鎖が実施されました。日本では、3月に小池東京都知事が記者会見でロックダウンの可能性に言及し、誰もが知ることばになりました。
手指(しゅし)
ウイルス感染を防ぐために「手指の消毒」が求められるようになりました。「手指」は一般に「てゆび」「しゅし」と読み、「手の指」または「手と指」の意味で使われます。一方、医師は多く「しゅし」と読んで「手全体」のことを指します。「手指の消毒」は「手の消毒」です。