「今年の新語 2021」の選評

3. 秋のマスコミで「親ガチャ」話題

2位 ○○ガチャ

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

がちゃ【ガチャ】〈造語〉結果のよしあしが自分で選べず、偶然に左右されること。よくないことを引き当てた うらみごとや言い訳に用いる場合も多い。「親━(=親の地位や収入などによって、子の人生や運命がほぼ決まってしまうこと)・国━・時代━」[もともと、ソーシャルゲームで、アイテムやキャラクターを引き当てることをガチャと呼んだことによるが、ガチャは擬音語に由来する]

 今回の投稿数で「親ガチャ」が最多だったことは述べました。「ガチャ」は、「担任ガチャ」「職場ガチャ」など、さまざまに使われる造語成分です。応用範囲が広いことから、「○○ガチャ」の形で2位に入りました。

 「親ガチャ」は、ちょうど「今年の新語2021」の募集期間(9月8日~11月1日)に特に話題になりました。9月7日、社会学者の土井隆義さんがウェブメディア「現代ビジネス」で学生のことばとして紹介しました。どんな親の元に生まれるかをガチャ(ソーシャルゲームでアイテムを得るためのくじ)に見立てたもので、人生が家庭環境で決まってしまうという嘆きを表しています。土井さんの文章を踏まえ、15日にテレビ朝日、16日に日本テレビ、19日にTBS、21日にフジテレビ(東京の場合)と、民放各社が「親ガチャ」を話題にしました。瞬間風速的に話題が沸騰したことが、投稿数を押し上げた面がありそうです。

 ただ、この「ガチャ」ということばは、これまできわめてユニークな歴史を経てきました。そのユニークさだけでも、上位に入賞する資格は十分にありました。

 「ガチャ」は本来、駄菓子店などに置かれた、カプセル入りおもちゃの自動販売機のことです。ダイヤルをガチャガチャ回して、どんなおもちゃが出てくるかは運次第。かっこよく「カプセルトイ」とも言いますが、子どもたちは以前から「ガチャガチャ」「ガチャポン」「ガシャポン」などと呼んでいました(商標でもあります)。

 21世紀に入って、ガチャはスーパーやファミレスなど、あちこちに置かれるようになりました。現在、量販店や観光スポットにさまざまなガチャが並ぶ風景は日常化し、購買層も年齢を問いません。
 国語辞典は、長らくこの意味の「ガチャ」を載せていませんでした。遅ればせながら、21世紀になって「ガチャガチャ」「ガチャポン」などとともに載せるようになりました。

 やがて、ソーシャルゲーム用語としての「ガチャ」が一般化します。ガチャを引いてすべてのアイテムを購入すると、特典で希少アイテムが得られるという「コンプガチャ」が問題化したこともありました(2012年)。ゲーム用語の「ガチャ」も国語辞典に載りつつあります。

 現実をゲームのガチャに見立て、理想としない親の元に生まれることを「親ガチャに外れた」などと言うようになったのは、さらにその後のことです。「今年の新語」では2018年からこの意味の「ガチャ」が投稿されています。「○○ガチャ」のバリエーションは、「友だちガチャ」「人生ガチャ」など、いろいろな例があります。

 人生はいろいろなガチャによって決まってしまう、と考えるのはネガティブすぎます。一方で、「格差社会」(2006年)と言われる状況がなおも続き、多くの人が「自分の力ではどうしようもない」と感じていることも事実です。「○○ガチャ」は、そうした閉塞感、無力感を、自嘲的に表したことばです。

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