4. 「マリトッツォ」流行は終わっても
3位 マリトッツォ
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
マリト┓ッツォ〔イ maritozzo〕パンをカスタネットのように ひらき、生クリームをたっぷり つめこんだ菓子か
し。
3位の「マリトッツォ」は、今回のベストテンの中で最も心が明るくなることばです。生クリームをたっぷり挟んだ菓子パンのこと。イタリアでは昔からありますが、日本では2021年に入ってメディアで多く紹介されるようになり、6月には「グーグルトレンド」の検索頻度がピークに達しました。
シンプルと言っていいお菓子ですが、挟まれた生クリームの存在感は圧倒的なものがあります。食品としてはこの年一番のヒット商品になりました(日経トレンディ「2021年ヒット商品ランキング」)。
「流行はいずれ終わる。辞書に載るほど定着したと言えるのか」と聞かれることもあります。流行は終わっても、一度人気の出たスイーツには多くのファンがつきます。1990年代、ティラミスやナタデココなどが爆発的にヒットした時は、一過性の現象と言われ、「いずれ消えるのでは」と収録を見合わせた国語辞典もありました。でも、今はどれも普通に買えるお菓子です。マリトッツォも同様になるだろうと判断しました。
4位 投げ銭
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
なげせん【投げ銭】〈名〉①ふるく、芝居や見世物などで観客から舞台へ、また、大道だい
どうで通行人から芸人などへ、芸の代価として、紙に包んだ銭ぜにを投げ与えたこと。また、その銭。[類]おひねり・チップ ②ウェブサイトで、無料で企画やコンテンツを作成したことに対して、応援の意味を込めて寄付すること。また、そのときのお金やネット独自のポイント。「━システム・━サイト」③時代劇・時代小説の主人公、銭形平次ぜにがた
へいじが、悪玉めがけて投げつける銭。「決め手の━を飛ばした」
4位の「投げ銭」は、かつては大道芸人や、舞台上の芸人などに投げて渡す小銭のことを言いました。インターネットが普及すると、面白いと思ったコンテンツに贈るポイントやお金も指すようになりました。亀井肇『平成新語・流行語辞典 外辞苑』(平凡社)では、1999年のことばとして「投げ銭システム」を紹介しています。気に入ったホームページに、投げ銭感覚でカンパを行うシステムです。
2017年、ユーチューブでメッセージとともに投げ銭が送れる「スーパーチャット」(スパチャ)の機能が実装され、投げ銭システムが広く知られるようになりました。スパチャでの投げ銭が1億円を超えた音楽公演の配信も話題になりました。2021年にはツイッターが投げ銭機能「Tip Jar(ティップジャー)」を装備し、このシステムはいっそう身近になりました。コロナ禍も契機となって、パフォーマーの活動の場がオンラインに移りつつあります。「投げ銭」は、そんな現状を象徴することばと言えるでしょう。
5位 人流
『新明解国語辞典』編集部
じん りゅう0 ―
リウ【人流】〔「物流」に対して〕旅客の輸送。またはそれに関係する活動。「―の要」〔単に人の(移動の)流れの意にも用いられる。例、「―を抑制し感染症の拡大を防ぐ」〕
5位の「人流」は、文字どおり移動する人の流れという意味です。新型コロナウイルス感染拡大の2年目、事態が深刻化した2021年によく使われるようになりました。たとえば1月、小池百合子東京都知事は緊急事態宣言を出すよう国に求め、〈ここでただちに徹底した人流の抑制を図る必要がある〉と述べています。
従来の使用例を見ると、一種の経済用語として「人の流れ」の意味で使われる例が大半です。たとえば、〈環太平洋地域の人流、物流、商流、情報流〉(『朝日新聞』〔大阪版〕1989年4月11日)のように、「物流」などと並列的に使われています。これが感染拡大防止の文脈に応用されたのです。
この語については、「人をモノ扱いしているようで違和感がある」という意見も多く聞かれます。心情的には理解できますが、コロナ収束後も広く使われる見込みがあり、国語辞典の項目にはほしいことばです。